記録遺産を守るために
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会【全史料協】
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ICA アーキビストの倫理綱領
はじめに
01. アーキビストの倫理綱領は、文書館学専門領域の行動に質の高い基準を設けようとするものである。
 この倫理綱領は、新たにこの領域のメンバーとなる人には基準を教示し、また経験を積んだアーキビストにはその専門領域の責任について注意を喚起し、一般人に対してはその領域への信頼を浸透させようとするものである。
02. この倫理綱領においてアーキビストとは、文書館史料の制御、整備、保管、保存及び管理にかかわるあらゆる事柄に関わる者をいう。
03. 所属機関及び文書館当局は、本倫理綱領の実施を可能とすべき方針や実務を採択することが推奨される。
04. この倫理綱領は、この専門領域の構成員に倫理上の指針を与えようとするものであり、特定の諸問題を特に解決しようとするものではない。
05. 主文には全て解説が付されている。倫理綱領は主文と解説とで構成されるものとする。
06. 綱領は、文書館機関や専門家団体がこれを実施したいという希望によって構成されている。これは、教育的努力の形式、及び疑義ある場合の指針の提供や、倫理にもとる行動に関する検討、並びに適切と考えられる場合には制裁の適用のための機構の創設に用いる。


倫理綱領

01. アーキビストは、文書館資料の完全性を保護し、それにより資料が過去の証明として信頼できるものであり続けることを保障しなければならない。
 アーキビストの第一義的な義務とは、アーキビストが管轄し、その収蔵にかかる記録について、現状をそのままに維持管理することである。この義務の遂行にあたり、アーキビストは、雇用者、所蔵者、データ件名、並びに過去・現在・未来の利用者のいずれについても、時には相反することもある権利と利益の正当性を考慮しなければならない。アーキビストの客観性、公平性は、プロ意識の尺度である。アーキビストは、事実を隠蔽、あるいは歪曲するために、証拠を操作するいかなる情報源の圧力にも抵抗すべきである。
02. アーキビストは文書館資料を歴史的、法的、管理運営的な観点からみて評価、選別、維持管理を行い、それにより出所の原則、資料の原秩序の保存と証明を残さねばならない。
 アーキビストは常識的な理念と実務にしたがって行動しなければならない。
 アーキビストはアーカイブズの理念にしたがって、電子記録やマルチメディア記録を含め、現用及び半現用記録の作成、維持管理及び処分、文書館へ移管する記録の選別と受け入れ、アーキビストが管轄する資料の保安、保存及び修復、並びにそれら資料の整理、記述、出版を含む利用提供について考慮しつつ、その義務と機能を果たさなければならない。アーキビストは所属する文書館機関が運営上求める要件、及び受入れ方針について完全な知識を持った上で、これを勘案しつつ記録の評価を行うべきである。
 アーキビストは文書館の理念(すなわち出所の原則、原秩序尊重の原則)と承認された標準に従い、できる限り速やかに、保存のために選別した記録の整理と記述をすべきである。アーキビストは所属機関の目的及び財源に沿って記録を受け入れるべきである。アーキビストは、記録の現状維持や保安の危機を冒してまで、あえて記録の受入れを模索・承諾すべきではない。アーキビストは、これら記録の最も適切な保存場所での保存を確保するため、相互協力すべきである。アーキビストは、戦時下や占領下に持ち去られた公的資料を、本来の発生国の返還するため、協力すべきである。
03. アーキビストは、資料が文書館で処理、保存及び利用に付される間、損なわれることがないよう保護しなければならない。
 アーキビストは電子記録やマルチメディア記録を含め、評価、整理及び記述、修復、利用などの文書館業務のために、記録の資料価値が損なわれることがないよう万全を期するべきである。標本抽出は、必ず注意深く考案された手法と基準にしたがって行うべきである原本を別のフォーマットで代替する場合は、その記録の法的価値、評価額、情報価値についての検討を必ず行うべきである。閲覧制限のある書類を一時的にファイルから外す場合は、利用者に対してこの事実を周知すべきである。
04. アーキビストは文書館資料が継続的に利用され、理解されるように努めねばならない。
 アーキビストは、資料を作成並びに収集した人物又は機関の活動についての、必須の証拠を守り、かつ研究動向の変化を念頭におきつつ、その資料を保存するか廃棄するかの選別を行わねばならない。アーキビストは、出所が疑わしい資料の取得に当たっては、それがいかに興味深い内容のものであれ、不正な商取引に関与する可能性があることを念頭に置かねばならない。アーキビストは、かけがえのない記録を盗んだ容疑者の逮捕・起訴のためには、他機関のアーキビストや法務当局や警察などと協力すべきである。
05. アーキビストは、自らが文書館資料に対して施した行動を記録し、それが正当であることを証明しなければならない。
 アーキビストは、資料のライフサイクル全体を通じた良好な記録の管理実務を主唱し、新しいフォーマット及び新たな情報管理実務への取組みについて記録作成者と協力しなければならない。アーキビストは、現存する記録の取得と受入れのみならず、価値ある記録の保存に適切な手続を、情報や記録が発生する時点からはじまる現用情報及び保存システムと合体させることについても、注意を払う必要がある。文書作成部局の職員や記録の所蔵者との交渉に当たるアーキビストは、次の各項目について該当する場合は、これを十分に考慮した上で公正な決定を模索しなければならない:移管、寄贈、売却の当事者;財政取決め及び利益;処理の計画;著作権と閲覧条件。アーキビストは、資料の取得、修復及びあらゆる文書館にかかわる業務について記した永久記録を保管しなければならない。
06. アーキビストは文書館資料に対する最大限の利用可能性を促進し、すべての利用者に対して公平な業務を行わなければならない。
 アーキビストは、管轄するすべての記録について、総合目録と、必要なら個別目録の両方を作成すべきである。アーキビストは、あらゆる方面に対して、公正な助言を行い、バランスのとれる範囲でサービス提供を行うために、利用できる資源を採用すべきである。アーキビストは、所属機関の方針、所蔵資料の保存、関係法令への配慮、個人の権利、寄贈者との覚書などを勘案した上で、所蔵資料に関する常識的な質問にはすべからく、丁寧に、親切心を持って応答し、資料を可能な限り利用するよう、奨励すべきである。アーキビストは、資料を利用する可能性のある人々に対し、非公開の事由を適切に説明し、だれに対しても平等な対応をしなければならない。また、アーキビストは、正当な理由なく閲覧利用が非公開とされている資料を減らすよう、つとめるべきであり、また資料の受入れに当たっては、明確な期限のある非公開である旨を記した、受入れ承諾書を受け取ることを提案することができよう。アーキビストは、資料受入れ時に作成したすべての覚書を、誠実かつ公正な目で観察し、アクセスの自由化の利益のためには、状況の変化に沿って閲覧条件の再交渉を行うべきである。
07. アーキビストは、公開とプライバシーの両方を尊重し、関連法令の範囲内で行動しなければならない。
 アーキビストは、法人及び個人のプライバシー並びに国家安全に関することでは、情報を損なうことなくこれを保護するよう注意を払うべきである。とりわけ、電子記録の場合は、更新や削除が簡単に行えるので、十分な注意を払わねばならない。アーキビストは、記録の作成者又は記録の対象となった個人、とりわけ資料の利用又は処分について声を上げることが出来ない個人のプライバシーを尊重しなければならない。
08. アーキビストは、一般的な利益において与えられた特別な信頼を用い、自らに与えられた地位を利用して、不公正に自らあるいは他者に利益をもたらすことを避けなければならない。
 アーキビストは、専門的な完全性、客観性及び公正性を損ないかねない活動を慎まねばならない。情報弱者とは、世界人権宣言19条に見られる「情報権」の行使や享受が十分に行えない人々のことをいう。機関、利用者及び同僚を傷つけて、財政的その他個人的な利益を得てはならない。アーキビストは、自らの責任エリアに属する原本資料を個人的に収集すべきではなく、また資料の商取引に関与すべきではない。アーキビストは公衆に利益の衝突を印象づけかねない行動を避けなければならない。アーキビストが所属機関の所蔵資料を用いて個人研究や著作発表を行う場合、その資料を利用できる条件や範囲は、一般利用者と同じでなければならない。アーキビストは、業務の中で得た非公開の所蔵資料にかかわる情報を、漏したり利用してはならない。アーキビストは、アーキビストが雇用されている専門的及び管理運営上の義務の適切な遂行を妨害するような、アーキビストの個人的な研究や著作発表の関心を、許容してはならない。所属機関の資料を利用する場合、研究者に対しまずアーキビストがその知識を用いたい旨を通知してからでなければ、アーキビストはその研究者による未発表の知識を用いてはならない。アーキビストは、所属機関の資料に立脚して書かれたその分野の他者の著作のレビューやコメントは、してもよい。アーキビストは、専門外の人々が文書館の実務や責任についての調停を行うことを許容してはならない。
09. アーキビストは、文書館学に関する知識を体系的・継続的に更新することにより専門領域についての熟練を追求し、その研究と経験の結果を実際に還元するよう努めなければならない。
 アーキビストはその専門的理解と熟練をさらに広げ、専門的知識を有する団体に貢献し、アーキビストが管轄する研修や活動が適正な方法でアーキビストの使命を遂行するために用いられるよう、努めなければならない。
10. アーキビストは、同一あるいはその他の専門領域の構成員と協力して、世界の記録遺産の保存と利用を促進しなければならない。
 アーキビストは、文書館の標準と倫理への信念を強めつつ、専門分野の同僚間での協力を高め、紛争を避ける方法を模索しなければならない。