記録遺産を守るために
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会【全史料協】
トップページ
3 緊急対応
3−1 緊急対応計画
 地震、火災、水害またその他の災害が文書館に被害をもたらしたときには、被害の拡大を防ぐためにさまざまな対策を緊急に行う必要があります。またまさに発生しようとする場合には、被害を未然に防ぐための対応も必要です。
 緊急対応計画は、これらの対応を行うために事前に対策の項目を把握し、そのための準備を行い、分担を定めておくものです。



3−2 緊急対応のための組織
 緊急対応を十分に、かつ速やかに行うために、緊急対応の責任者とチームを事前に定めておきます。
 責任者は組織的には文書館館長があたりますが、実質的な責任者は緊急対応の全てについて専門的知識を持っていることが大切です。緊急対応チームは緊急対応の項目に応じて分担を定め、その内容と方法を周知しておくことが必要です。
 災害発生はその時を問いませんから、どんな場合でも速やかに参集できるよう、連絡方法を定めておくとともに、責任者不在の場合の代替責任者を定めておきます。



3−3 災害発生直前の緊急対応
 災害が発生しつつある場合には、被害を未然に防ぐための対応を行います。このような場合は、たとえば大雨警報や洪水警報等の気象警報や、東海地震の警戒宣言発令時などがあります。
・担当職員の召集
・閲覧等の業務の停止や短縮
・屋上の排水溝の目つまりの点検、窓枠の点検と目張り
・地階への浸水危険の点検と土嚢やシートによる浸水防止
・転倒や落下の危険のある資料や器具の転倒、落下防止
・資料の疎開



3−4 災害発生後の緊急対応

 3−4−1 第一発見者の対応
 何らかの異常を発見した場合、職員のだれであっても、次の行動を行います。
・災害担当責任者に伝わるべく、警報を作動させ、また連絡を電話等でとります。
・可能な範囲で、異常の原因を除去します。
・被災していない資料の保全を行います。
 これらの行動を誰であっても行うことが出来るために、文書館各室には上記の手続き及び連絡電話番号を記載した指示を掲示しておきます。

 3−4−2 緊急対応
 上記の第一発見者による通報と対応に続いて、より適切な緊急対応を行うことになります。災害対応責任者は次の行動を行います。
・災害対応責任者は、発生している事態を確認し、大規模な災害なのか、又どのような被害が
 発生しているのかを確認します。
・人的被害が発生しているかを確認をします。
・必要に応じて防災機関に通報します。
・必要に応じて避難誘導を指示します。
・災害対応チームを必要に応じて召集します。
・参集した災害対応チームに対してそれぞれが行うべき緊急対応の説明と指示を行います。

 3−4−3 応急対応
 地震による揺れ、水害による浸水、火災といった災害事象が一応おさまった後に、資料の被害の進行を防ぐための応急対応を行います。災害対応責任者は次の行動を行います。
・災害対応責任者は文書館の建物が崩壊する恐れの有無を確認し、災害対応チームの入館が
 可能かどうかを判断します。
・災害による資料の被害を調査し、記録します。
・被災資料への対応を定め、災害対応チームに対してそれぞれが行うべき緊急対応の説明を
 行います。
・応急対応に必要な資器材の調達を行います。
・必要に応じて資料保存の専門家のアドバイスを求めます。
・必要に応じて関連団体からの災害対応チームへの支援を求めます。
・必要に応じてボランティアを災害対応チーム等に編入させます。
・機構上の上部機関への連絡、報告を行います。
・マスコミへの対応方針を決定し、担当を定めます。



3−5 被災資料の取扱の指針
 文書館の資料の被害で最も一般的な被害は水損被害と考えられます。その原因が洪水であれ、配管破損によるものであれ、火災時の消火活動によるものであれ、水損を伴います。その他の被災としては火災による焼損や、地震による資料の落下や書架の倒壊に伴う損傷があります。それらの損傷を受けた資料の取扱について、次に述べておきます。

 3−5−1 取扱の基本的な考え方
(1)資料を救助するには場所が必要です。救助を行う本部となる場所と処置を行う場所が必要となります。
(2)文書館の資料は1点ものが多いため、すべてを救助することを前提とします。ただし、図書等代替の
   可能なものは、被害の程度と救助予算、代替化予算等を考慮して廃棄することも考えます。
   (これを段階的保存プログラムといいます)
(3)被災資料の被害は複合することが多いので、その場合は原則として、【1】水損、【2】焼損、【3】損傷
   の順に処置を行います。
(4)資料の救助や撤去が終了したら、復旧のため施設の清掃や消毒、設備の修理等を行います。
   水を使う場合と水損の場合は、カビの発生に注意しなければなりません。

 3−5−2 水損資料の取り扱い

  3−5−2−1 取り扱いの考え方
・紙は水分を吸って膨張し、重量を増します。また柔らかく、コシがなくなり、裂けやすくなります。
 このため取り扱いには細心の注意が必要です。
・紙資料は、濡れると使用された筆記具によっては文字がにじみます。
・紙資料の汚染水が何か確認します。
 汚染水が下水系の場合は資料の洗浄や消毒、取扱者の予防接種の必要も生じます。
・濡れた紙は乾燥するに従って、カビ、ゆがみ、固着、変色などが発生します。
・紙資料はできるだけ早く凍結させます。
 被災後できれば48時間、遅くとも72時間以内に救助を終えることが必要です。
・焼けて消火水をかぶっていても、紙が焼けずに残っていたら救済可能です。
 消火剤によっては資料に悪影響を与えますので、確認が必要です。
・紙資料に採用できる乾燥方法は多数あります。
 どの処理を選択するかは、損傷の程度と量、動員できる人員と設備、予算によることになります。
 (1)真空凍結乾燥法
 (2)凍結乾燥法
 (3)自然吸水乾燥法
【1】真空凍結乾燥法は、水が4ミリHg以下では液体として存在できないことを利用するものです。
   最も安全に、かつ短時間で大量に処理できる方法ですが、現在の日本では利用できる機器が
   あまりにも少ない状況です。
【2】凍結乾燥法は、凍結し放置することによって乾燥させる方法ですが、時間がかかります。
   むしろ凍結して、処理可能な量だけ解凍しながら吸水乾燥させる方法の方が実用的です。
   乾燥の方法は自然吸水乾燥法の項を参照してください。
【3】自然吸水乾燥法は、安価で簡便な乾燥法ですが、被災資料がごく少量(10点以内)または
   かすかに湿っている場合以外は採用してはいけません。
   それでも短時間に大量の人員を動員する必要があります。
   凍結しないでカビの発生を防ぐためには、専門家の指導によって防カビ剤を使用しなければ
   なりません。
・フィルム、フロッピィディスク、ビデオテープ、写真などは、微細なゴミ、ホコリが付着しやすい特性をもって
 いますが、救済可能なことが多くあります。フィルム類はきれいな水に漬けたまま72時間以内に専門家・
 業者による洗浄・乾燥を行います。凍結する必要はありませんが、緊急に処理不可能な場合のみ凍結し
 ます。

  3−5−2−2 取り扱いの方法
・紙資料は発見された状態で救助します。
 汚れた手で開いたり、こすったりして傷をつけてはいけません。
・何冊、何枚かまとまっている場合は、無理に引き離さずそのまま救助します。
・乾燥法の処理方法は次のとおりです。

(1)真空凍結乾燥法
・可能ならば、注意深くある程度資料を整形します。
・歪んでいるものは平らにします。
・水損資料を完全に凍結させます。
 可能ならばマイナス40℃以下が望ましいですが、家庭用の冷凍庫も利用できます。
・不織布に入れ、真空凍結乾燥機で真空状態に放置して強制的に水分を昇華させます。
・常湿に約1週間放置し、湿度になじませます。
・周囲に付着したゴミ・ほこりを除去し、また固着したページをはがします。
・資料を元の書架などに戻します。

(2)凍結乾燥法
・長時間放置可能な場合は、一時凍結後ポリ袋から不織布または和紙などに入れ替えても
 よい。
・吸水乾燥します。その方法は自然吸水乾燥法の項を参照してください。

(3)自然吸水乾燥法
・温湿度の低い(20℃・50%RH以下)風通しのよい部屋で実施します。たえず空気の流れが
 あることが望ましいですが、直射日光や温風に資料は直接当てません。
・表紙がしっかりしている場合は、縦置きにして余分な水分を流出させます。
 吹取紙や板に乗せ、斜めに傾けただけでも余分な水分は流出します。
・竹ヘラなどで注意深く紙を上げ、数枚ごとに吸水紙を挟み込み、上から重しなどをかけます。
・たえずカビの発生がないか注意しながら、吸水紙を交換します。
・見た目で乾燥しても紙の表面のみが乾燥している場合があります。
 繊維まで完全に乾燥するには時間がかかるため、カビの発生に注意します。

 3−5−3 焼損資料の取扱指針

  3−5−3−1 取扱の考え方
・資料はゆっくりと火と熱に侵され、火元を除いて上部から被害が拡大します。
・火は紙資料の周囲または露出した表面から侵食していきます。
・密集した紙資料は燃えにくく、助かるものもあります。
・熱が下がらないと燃焼が続いたり、再発火する可能性があります。
・消火剤を確認し、水以外の消火剤が使用された場合には資料への被害を調査します。
・フィルム、フロッピーディスク、ビデオテープ、写真などは熱によって変形・焼失する可能性が
 あります。
・煙、スス、臭いが資料に付着すると、除去は容易ではありません。

  3−5−3−2 取扱の方法
・紙資料のコゲや熱で変色した部分をなるべくさわらないようにします。
・まとまりのある紙資料はまとまりのまま移動させます。
・ススの付着した紙資料は史料用消しゴムやエアーコンプレッサーで除去できますが、専門家に
 よる専門的処置を施すこととします。
・水をかぶった紙資料の取扱は、水損資料を参考にしてください。
・フィルム、フロッピーディスク、ビデオテープ、写真などの被害の大きいものは、すみやかに複製
 を作成します。

 3−5−4 焼損資料の取扱指針

  3−5−4−1  取扱の考え方
・地震などによって落下しても、紙、フィルム、フロッピーディスク、ビデオテープ、写真などの資料
 は損傷を受けにくいものです。
・装丁や綴りが壊れたとしても、固まりとしてまとめておきます。
・袋などから飛び出してばらばらになったとしても、固まりとしてまとめておきます。
・資料に被害がなくても、収納具、施設などに被害が発生している可能性もあります。
・コンクリート片などに埋没している場合は、水と火の害が発生していないかまず確認します。
 埋没した資料に被害がなかったら、次に水と火の被害を防止します。

  3−5−4−2 取扱の方法
・原則として補修作業と大差ありません。取扱は最も容易です。
・埋没したものは考古の発掘作業と大差ありません。安全を確保したのち実施します。
・救助後、被害の大きいもの、緊急度の高いものなどから修復順位を決定します。
・落下したのち、水を吸った紙資料については水損資料の項を参照してください。
・火災の害を受けたものは、焼損資料の項を参照してください。
・フィルム、フロッピーディスク、写真などで被害の大きいものは、すみやかに複製を作成します。

 3−5−5 必要な資財と器材

  3−5−5−1 緊急対応に必要な資財等
・ポリ袋(大・中・小)
・筆記用具
・カメラ(記録用/使い捨てカメラでもよい)
・メジャー
・軍手
・手ぬぐい
・防塵マスク
・中性紙
・冷凍庫
・扇風機(よどみなく空気を送る)
・段ボール箱

3−5−5−2 真空凍結乾燥法を利用するのに必要な資財等
・発泡スチロールの箱
・通気性のある箱
・冷却剤(ドライアイス/その他の冷却剤/水が流出しないようにした氷など)
・不織布

3−5−5−3 凍結乾燥法を利用するのに必要な資財等
・不織布または和紙

3−5−5−2 真空凍結乾燥法を利用するのに必要な資財等
・吸水紙(吸取紙・定性ろ紙・和紙など)
・竹べら
・重し