全国歴史資料保存利用機関連絡協議会【全史料協】

専門職養成制度に向けての全史料協の活動について



全史料協専門職問題委員会


1.公文書館法の公布
 昭和62(1987)年 12月15日公文書館法公布。その第4条第2項で、「公文書館には、館長、歴史資料として重要な公文書等にについての調査研究を行う専門職員その他必要な職員を置くものとする」と規定され、付則の第2項で、「当分の間、地方公共団体が設置する公文書館には、第4条第2項の専門職員を置かないことができる」と、専門職員についての特例を認めた。

2.文書館専門職員(アーキビスト)の養成についての提言
 昭和63(1988)年3月、全史料協公文書館法問題小委員会(昭和62年10月1日設置、委員10名、座長高野修)が、中間報告として「公文書館法の意義と今後の課題(案)」発表し、同年6月日歴協と合同でシンポジウム「公文書館法の意義と専門職養成の課題」を開催するなど、会員等の意見を徴する手続きを踏み、翌平成元(1989)年1月最終 報告書として「記録遺産を守るために−公文書館法の意義と課題−」を公表した。最終報告の第3部「文書館専門職(アーキビスト)の養成についての提言」では、文書館専門職員の職務の詳細及びその地位と資格並びに養成課程の教育内容を提示してその具体像を描き出した。そのうえで、@アーキビスト(仮称)の資格は、大学院修士課程で必要な単位を修得したものに対し国が与えること、Aアーキビスト養成のため大学院修士課程を設置すること、B国は養成課程設置のために準備検討機関を早急に設けることなどを提言した。

3.公文書館専門職員養成制度の確立に関する要望書
 平成元年(1989)年10月5日、全史料協第15回全国大会(広島県で開催)総会で、「公文書館専門職員養成制度の確立に関する要望書」を採択し、10月26日付けで内閣総理大臣宛に提出した。要望書では、専門職員を欠いたままで公文書館運営が継続されることが公文書館法の趣旨に沿わないことを指摘し、専門職員養成体制の確立が急務であることを訴えた。

4.文書館専門職の諸問題特集
 全史料協『会報』第21号(平成3年 3月発行)は「文書館専門職の諸問題」を特集、これに、松尾正人「専門職問題と『文書館講座』」、渡辺佳子「文書館における『専門職』の必要性について」、大藤修「アーキビストは変人こそふさわしい」、畑中佳子「アーキビストの養成について最近考えること」を掲載した。

5 文書館専門職(アーキビスト)養成制度の実現にむけて
 平成3年11月7日、専門職問題特別委員会(第1次)が全史料協第17回大会(徳島県で開催)総会で設置を決議され発足した。この委員会(16名を委嘱、委員長高野修)は会長の諮問機関としての設置され、翌年11月の愛知大会までに専門職問題について検討結果を会長に報告することを任務とした。同委員会は、平成4年2月さきに専門職問題小委員会が作成公表した「文書館専門職(アーキビスト)の養成についての提言」についてのアンケート調査を実施(同年10月結果を公表)したほか、専門職問題について地区別フォーラムを3月19日(大坂)及び5月9日(東京)で開催し、また数度の委員会を開いて問題を検討、10月20日報告書「文書館専門職(アーキビスト)養成制度の実現にむけて」を会長に提出した。同 報告書は、文書館の機能とアーキビストの役割を明確にしたうえで、アーキビスト養成のカリキュラムの素案を示し、養成課程の設置形態及び資格認定に関し提案した。提案の主な内容は、養成課程は大学院修士レベルとすること、いくつかのコースを用意して現職者にも履修の道を開くこと、資格認定は養成機関で所定の単位を修得したものに国が行うこと、実務経験者には別途経過措置を講ずることなどである。

6 文書館専門職員養成制度確立に関する請願書
 平成4(1992)年11月12〜13日愛知県で開催された全史料協第18回全国大会総会で「文書館専門職員養成制度確立に関する要望・請願」を決議し、翌平成5年3月10日約1万名の署名を擁した「文書館専門職員養成制度確立に関する請願書」を衆参両院議長に提出、ついで3月17日同文の要望書を内閣総理大臣、文部大臣、自治大臣に提出した。請願書では、「文書館専門職員の養成制度を早急に確立」するための重要課題として次の3項を要望した。@専門職員の養成及び資格制度の確立を国の文教政策に位置付け、学校等の教育機関の設置を積極的に推進すること。A文書館及び歴史資料保存利用機 関の現職者を専門職員として認定する制度措置を速やかに講ずること。B文書館専門職員の養成・資格制度のあり方並びにその実施方策を検討する審議機関をもうけその施策を具現化すること。請願書は国会の解散により審議未了に終わったが、同年12月衆参両院議長あてに再度提出、翌1994年1月両議院内閣委員会と本会議において議決された。その[請願に対する処理要領]には「専門職に必要な専門的知識と経験の具体的な内容等を確定していく必要がある」こと、国立公文書館で「専門職員の養成及び資格制度について、有識者による研究会」により検討が行われていることが示された。

7 アーキビスト養成をめぐって
 全史料協『会報』第27号(平成5年3月発行)は、「アーキビスト養成をめぐって」を特集し、吉井敏幸「アーキビスト(文書館専門職)養成における中間的措置について」、井上潤「アーキビストの養成に向けて」、松尾正人「専門職養成制度への期待」を掲載した。

8 専門職問題−国立公文書館『専門職に関する研究会報告書』をめぐって−
 国立公文書館長の依頼により平成元(1989) 年11月公文書館における専門職員の養成及び資格制度に関する研究会が設けられた。専門職員の養成と資格制度について検討を続けてきたこの研究会は、平成5年6月21日報告書を国立公文書館長に提出した。これに対し全史料協『会報』第28号(平成5年9月発行)は、「専門職問題―国立公文書館『専門職に関する研究会報告書』をめぐって」を特集、鈴江英一「公文書館法の問題点を増幅した『報告書』」、松井輝昭「国立公文書館の専門職に関する研究会報告書を読んで」、阿部昭「研究会報告書への感想」を掲載した。鈴江氏は報告書がアーキビストの名称を「公文書館専門職員」とし、資格付与の対象を現職者に限定していることなどに批判的な意見を呈示した。

9 アーキビスト制度への提言
 平成6(1994)年9月19日第2次専門職問題特別委員会が全史料協会長の諮問機関として組織された。委員会は12名(委員長高埜利彦)で任期は1年、専門職養成制度を多角的に検討しその結果を会長に報告することを任務とし、アーキビスト養成の足かせとなっている公文書館付則の特別条項撤廃を前提として、公文書以外の広範囲な記録群の保存をも視野に入 れる方針をたて議論を展開した。同委員はその内部に報告書の素案を作成するワーキング・グループを設置し、これを中心に委員会活動を推進する一方、平成7年7月8日学習院大学を会場に企業史料協・地方史研究協議会・日歴協史料保存利用問題特別委員会・東日本大学史連絡協議会・全史料協合同主催のシンポジウム「アーキビスト(文書館専門職)問題を考える」を開催、同年12月18日報告書『アーキビスト制度への提言』を会長に提出した。報告書は、文書館学を基礎科学とした新たな「研究・教育システム」の構築とアーキビスト養成課程及び専門職人事について具体的な提案をおこない、多様化する史料保存の専門的業務に鑑みいくつかの養成コースを想定し、第1種アーキビスト、第2種アーキビスト、アーキビスト補などの階層性を敢えて提起した。資格認定については、高等専門職教育機関、管轄省庁のほかに全史料協を中心に第三者的認定機関をもうけておこなうことも提案された。そしてこの養成及び資格制度の早期実現を図るために、全史料協に対し@政府、国会、学会、関係団体への働きかけ、A大学院、大学、大学共同利用機関への働きかけ、Bアーキビストの法的権限強化にむけての 研究や文書記録保存法制定の提言促進、C養成及び資格制度についてのリーダーシップ、D独自の研究機能充実など5つの提言を用意した。これに対し全史料協『会報』第36号(平成8年3月発行)及び第37号(同年6月発行)は「特集第二次専門職特別委員会報告」として梅村郁夫「『アーキビスト制度への提言』を読んで」、久保田昌希「『アーキビスト制度への提言』を読んで」、久部良和子「『アーキビスト制度への提言』について思うこと」を掲載した。第二次専門職特別委員会報告書は、小冊子に印刷して全会員に配布され、『記録と史料』第7号(平成8年10月発行)にも掲載された。

10 専門職問題委員会の発足と活動  平成8(1996)年4月1日全史料協の各種委員会の一つとして専門職問題委員会が役員会で承認され発足し、専門職制度や養成制度問題を継続して検討することになった。同委員会は、平成8年度発足時委員8名のち10名・委員長衛藤駿のち高野修・事務局茨城県立歴史館、平成11年度から委員11名・委員長高橋実・千葉県文書館、平成13年度から委員11名・委員長斎藤佳郎・事務局茨城県立歴史館と推移し、この間次のような活動を展開 した。

(1)『アーキビスト制度への提言』に対するアンケート調査 平成8年12月第二次専門職問題特別委員会報告書『アーキビスト制度への提言』に対するアンケート調査を実施した。同時に国立公文書館の諮問機関である研究会が作成した『公文書館における専門職員の養成機関の整備等に関する研究会報告書』についてのアンケート調査もおこなった。平成9年7月その集計結果報告書を作成配布した。

(2)国際文書館評議会(ICA)のアーカイブス教育・トレーニング部会 この部会は1988年パリで開催されたICA第11回国際大会での決議により設置されたもので、記録史料学の教師の交流、教育のためのツールの開発、プロフェション養成への貢献などを目的に掲げ、目的達成のための諸事業を展開してきた。部会の会員は約100名(2002年現在)、各国の教育・トレーニング機関及び記録史料学教育の従事者である。その部会員である国文学研究資料館史料館教授安藤正人(全史料協専門職問題委員会の委員)は、部会の第5期運営委員会(1996〜2000)の1員として活躍した。第6期運営委員会(2000〜2004)の運営委員には北海道立文書館の青山英幸 (同じく全史料協専門職問題委員会の委員)が選出され活動を続けている。第6期運営委員会は代表1名(Ms.Karen.Anderson オーストラリア)、副代表1名、秘書1名、委員13名、通信委員3名の計19名で構成されている。

(3)専門職養成問題大学関係者懇談会 『アーキビスト制度への提言』での提言をうけ、大学における養成体制を検討するために国文学研究資料館史料館、お茶の水女子大学、学習院大学、日本女子大学の関係者により平成10年3月19日第1回懇談会が開催された。現在継続中である。

(4)史料保存機関職員の実態調査アンケート 平成10年9月、全史料協所属の機関会員を対象に史料取り扱い職員の実態調査を実施した。機関会員157のうち84機関から回答を得、その集計結果を平成11年3月作成配布した。

(5)アーキビスト養成制度の確立を望むアピール 平成10年6月8日政府は「公文書館専門職員養成課程実施要綱」を決定、これにより平成10年度より国立公文書館において公文書館専門職員養成課程が開設されることになった。平成10年11月18日、これにたいし専門職問題委員会は、開設を歓迎する一方、受講対象者・ 科目の程度・養成期間など養成課程に未解決の問題があることを指摘し、これまで全史料協が提案してきた趣旨を確認しながら、国立公文書館・国文学研究資料館史料館・大学などの関係機関及び全史料協・学会などの関係団体を幅広く結集した全国的な協議機関の設置提案等を内容ととする「アーキビスト養成制度の確立を望むアピール」文を採択し、これを国立公文書館長に手交した。さらに関係する政府機関・各政党・都道府県知事・歴史学研究諸団体・関係大学にも送付した。

(6)国文学研究資料館再編にともなう要望書 国の機関の独立行政法人化と国文学研究資料館の立川移転問題が進展する過程で、同資料館史料館におけるアーキビスト養成機能の存続とその発展充実を求める要望が提起され、平成11年10月28日新潟で開催された全史料協第25回大会総会で「国文学研究資料館再編にともなう要望書」が提出採択された。「要望書」は国文学研究資料館長に提出するとともに、日本学術会議および日本歴史学協会へも送付した。

(7)記録史料学等の開講に関する調査 平成12年3月全国の269大学に調査票を送付、120大学から回答を得た。これにより 平成13年11月『記録史料学等の開講に関する調査』報告書を作成し、各大学、全史料協会員に配布した。

(8)市区町村における史料保存関係者等の実務研修に関するアンケート調査 平成12年5月47都道府県、教育委員会、都道府県全史料協機関会員を対象のアンケート調査を実施した。平成13年10月その集計結果報告書を作成した。

(9)国文学研究資料館史料館の充実・強化について 行政改革の一環として組織の統廃合、独立行政法人化、事業の見直しが論議される中、国文学研究資料館の統合問題を仄聞した全史料協会員は、同資料館におけるアーキビスト養成機能存続発展の重要性に鑑み、平成13年11月6日〜9日長野県で開催された全史料協第27回全国大会総会に「アーキビストの教育養成課程設置とアーカイブスの科学振興に関する要望」を提案した。これをうけて、「国文学研究資料館史料館機能の充実・強化について(要望)」を作成し、11月28日文部科学大臣及び国文学研究資料館長宛に提出した。 

(10)アーキビスト養成制度確立に向けて アーキビスト養成制度確立にむけて活動してきた専門職問題委員会は、これまでの活動を 総合的に検討した結果、アーキビストの養成制度とその資格認定制度の設立は全史料協が中心になって取組むべきであると判断した。同委員会は、取り組みの方向として@「アーキビスト(文書館専門職)資格認定協会」(仮称)の設立、A大学院と国文学研究資料館史料館による授業科目の設置をかかげ、平成14年度中にこれに関するある程度の見通しを立てることを述べた「アーキビスト養成制度確立に向けて」を作成、平成14年2月22日開催の役員会にこれを提出しその了解を求めた。
議論の結果,資格認定については国の機関や他の団体等と幅広く連携をとりながら,養成制度確立に向けて円滑に進めていくことを確認し,引き続き専門職問題委員会で検討することになった。

*本文案は、2002年4月22日に開催された専門職問題委員会委員の意見を入れ、同月.29日同委員会事務局が作成した。


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