記録遺産を守るために
全国歴史資料保存利用機関連絡協議会【全史料協】
トップページ
2 災害予防
2−1 災害予防対策を行うための組織
 地震、火災、洪水などの災害や放火、失火、盗難等さまざまな原因で文書館や資料が被害を受けることがないように、事前に準備しておくことを災害予防と言います。また実際に災害が文書館を襲い、何らかの被害が出た際に緊急に対応するための計画や準備も災害予防の段階で行っておくことになります。
 災害予防対策を行うための組織は、計画を策定することと予防対策を実施することを目的とするものです。文書館は、計画の策定のための責任者を定め、チームを組織して計画を策定します。また計画に基づく予防対策の推進に当たっては、担当者を定めて定期的な進捗報告を受けるものとします。

2−2 災害発生の危険性の把握
 どのような災害が文書館を襲う危険があるのかを把握することが災害対策の基本となります。

 2−2−1 過去に受けた災害と被害の確認
 過去において文書館が何らかの災害被害を受けたことがあるかどうか、職員や記録によって確認しておきます。

 2−2−2 立地場所の災害の受けやすさ
 文書館の立地場所によっては、特定の災害を受けやすい場合があります。それらは地震、水害や崖崩れ等の地盤災害また火災の延焼などです。

  2−2−2−1 地震の危険性の把握
 地震の多発地域であるか、東海地震のような想定される地震があるか、またどの程度の規模の地震を前提とすべきかについて、自治体の災害対策部局に問い合わせるか資料によって把握しておきます。同時に津波の危険や地盤の液状化の危険についても把握します。

  2−2−2−2 水害の危険性の把握
 河川や海岸が文書館の近くにある場合には、洪水や高潮に対する配慮が必要です。河川や海岸の治水対策の状況、文書館との位置関係、文書館の標高などを考慮して、水害の危険性を把握します。また市街地では雨水の排水能力の不足により地域的に浸水する恐れがありますから、最近の浸水箇所を把握しておくことも大切です。

2−3 建物の災害予防対策

 2−3−1 耐震性
 地震によって建物が倒壊すると、所蔵文書は著しく被害を受け、滅失する場合もあります。建物の耐震性の確保は災害予防のうちでも非常に大切な項目です。
 建物が古い場合、また新耐震設計法によらない建築の場合には耐震診断を行うことが必要です。その結果によって必要があれば耐震補強工事を行うべく、財政的な手当を行うべきです。

 2−3−2 耐水性
 風雨による浸水を防ぐために、屋上や窓の防水性を確認します。洪水の場合には地下部分への浸水が発生しやすいので、地下部分へ浸水しやすい構造かどうかの確認をします。

 2−3−3 防火性
 建物は耐火構造であることが基本です。文書館設立の経緯等から木造の建物を利用している場合もありますが、木造の場合には耐火建築への建替えを検討すべきです。そして耐火建築物への建て替えまでの期間はより厳密な防火対策が求められます。
 また文書館自体の防火とは異なって、周辺からの延焼火災に対する考慮も必要です。
 文書館が市街地の中にあって近隣に木造建物等が多くある場合には、周辺家屋との十分な距離の確保または遮断物の設置、周辺の危険物施設との十分な距離の確保または遮断物の設置等を検討する必要があります。

2−4 設備の災害予防対策

 2−4−1 設備の耐震対策
 耐震対策は建物と同様に屋上貯水槽、ボイラー、自家発電装置やエレベーター等の設備にも必要です。屋上貯水槽はパイプ外れによって水害等の2次災害の危険がありますので、耐震診断および必要に応じて耐震補強を行います。また自家発電装置は本来、何らかの事故に備えての設備ですから災害時に作動することが求められます。それだけに注意を払っておきます。
 また来館者や職員の安全確保の面から、ガラスの飛散、照明器具の落下、書架の転倒の危険を把握し、必要に応じた改修、補強を行います。
 書庫の扉は外開きとし、書庫内が散乱しても入室できるようにします。

 2−4−2 設備の浸水防止対策
 日常的に発生しやすい災害は配水関連の設備による水害です。次の点に注意します。
 ・配水管を、施設のなかの書架部分やその上部を通過させてはなりません。
 ・配水管の材質と継ぎ手部分については破損の恐れの少ないものとします。
 ・配水管システムについては、事故発生の危険を最小限にするために定期的な点検を行います。
 ・事故発生時に、速やかに配水管システムの水を排除するためのバルブを戦略的に設置しておき
  ます。
 ・床は防水床とします。

 2−4−3 設備の火災防止対策
 消防法に求められる防火設備、機器の設置は当然のことですが、文書館としての防火性確保からは、次の諸点に注意します。
 ・書庫の扉は防火扉とします。
 ・熱感知器および煙感知器を全館に設置します。
 ・資料に化学変化や物理的変化を与えるため、泡消火器は書庫内部には配備しません。
 ・書庫内部には水消火器と二酸化炭素消火器を配備します。
 ・配置した三角ポリバケツ(水消火器)は1ヵ月ごとに水を交換します。
 ・ハロン消火設備は環境への悪影響のため、今後の設置は行わない方針とします。
 ・書庫を含め、スプリンクラー消火設備を推進します。

 2−4−4 書架の耐震、防水対策
 地震の際に書架から資料が落下することを防止することは現在では困難のようですが、書架自体の転倒や変形によって、資料は落下したり、破損することになりますから、耐震性の高い書架を用いるべきです。書架が崩壊すると、災害後の片付けでも別途の保管場所が必要となるなど、さまざまな困難をもたらします。
 また水害の場合でも、書庫が水没するような場合を除けば、書架の最下段の高さを床から上げておくことにより、水損を防止することができます。その高さは15センチ以上と言われています。書架の最下段の利用を制限することでも、同様の効果を期待できます。。

2−5 資料の防護対策
 2−1から2−4までは建物、設備の災害予防対策を述べましたが、資料自体の防護対策について指摘しておきます。それらは地震、水害、火災といった個別災害への対応と言うよりは資料の保存そのものとも言うべきことですが、防災対策として不可欠な事項です。

 2−5−1 資料全般の対策
 資料の防護対策として次の事項を行います。
 ・保存を目的とした複製を作成すること。
 ・複製は原本と異なった場所に保存し、同一箇所に保存しないこと。
 ・所在証明のための目録とその複製の作成を行うこと。
 ・目録の複製は原本と異なった場所に保存し、同一箇所に保存しないこと。

 2−5−2 ボックスによる保管
 水害に対しても、火災に対しても、また資料の書架からの落下に対しても中性紙保存箱(フェイズドボックス)による保管は資料の防護に有効です。

2−6 防災教育
 職員が平時から防災に対する意識を持つことが、災害を予防し、緊急対応を適切に実施するために重要です。そのために防災教育プログラムを用意して職員の防災教育を実施するか、文書館の防災にかかる講習会等に職員を参加させるようにします。
 防災教育プログラムを開発する場合には、防災に関する基礎知識と被災資料の取扱いの知識を与えるようにします。文書館の防災にかかる講習会には、国立史料館による研修コース、全史料協による研修コース等があります。

2−7 防災訓練
 防災意識を高めるための防災教育と同様に、職員が平時から緊急対応に慣れておくことが重要です。これまでは一般的には防火訓練か避難訓練を行っている館が普通で、文書館の目的に沿った防災訓練を行っている館は非常に少ないと思われます。
 それぞれの館が防災訓練カリキュラムの開発を行い、防災訓練を定期的に実施すべきです。訓練の内容としては初期消火訓練、避難誘導訓練、災害時連絡や非常参集訓練とあわせ、損傷資料の取扱い訓練も重要です。

2−8 相互応援協定
 災害の規模によりますが、緊急対応や復旧にあたって自館だけでは充分な対応を行うことが困難な場合も考えられます。そのような場合に関係する学協会や類縁機関もしくは自治体等から支援を受けられるために平素から相互応援協定等を取り交わしておくことも重要です。