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 The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
 全史料協近畿部会会報デジタル版
 No.53  2017.8.4 ONLINE ISSN 2433-3204
 第135 回例会報告
2016年(平成 28)11月 16 日(水) 13:30〜15:00
滋賀県庁 新館7階 大会議室

「未来に引き継ぐ公文書―時代を越えた共有資源―」報告要旨
  報告者  井口和起氏(京都府立総合資料館顧問・福知山公立大学学長)

            全史料協近畿部会例会 報告者の井口氏
                報告者の井口氏

公文書管理法制定の意義
 2008年11月、「時を貫く記録としての公文書管理の在り方」という報告書が、内閣府の有識者会議から出されました。この報告書は、大変格調高い内容で、民主主義の根幹とは、国民が正確な情報に自由にアクセスし、それに基づき正確な判断を行い、主権を行使することにあるとうたっています。そして、国の活動や歴史的事実の「正確な」記録である公文書は、この根幹を支える基本的なインフラだと記されています。
 日本の公文書管理は、律令制以来の歴史があります。しかし明治期以後も、政治家の邸宅に重要な公文書が保管されるなど、甚だ不十分なものでした。戦後になって、1971年に国立公文書館が設立、87年に公文書館法が制定されるものの、地方の公文書館に関しては整備が遅れました。
 2009年に制定された公文書管理法は、先述の報告書の精神をそれなりに受け継ぎ、公文書は健全な民主主義を支える「国民共有の知的資源」とうたっています。この法律は、文書が作成されてから、廃棄・移管に至るまでを全てカバーするという、全ての公文書管理に関わる一般法として、大きな意義があります。後に政策決定のプロセスを検証できるよう、結果だけでなく、意思決定過程に関わる文書の作成義務が明記された点も重要です。非現用文書の利用請求権という、新しい国民の権利も保障されています。地方自治体にとっても、その趣旨に沿うように努力義務が生まれました。

文書保存の二つの流れ
 公文書を含めた文書保存の流れは、大別して2つあります。一つは戦後の「史料保存」運動の影響を受けたものです。文部省による史料館(現在の国文学研究資料館)の設置や、地域でいえば、郷土資料館や図書館の郷土資料室、文書館といった施設に、古い地域資料が収集・保存されていきました。特に1968年の明治百年前後には、各地で自治体史の編纂が進み、事業が終わると様々な施設で、その資料が保存されました。
 もう一つは、公文書館法から現在の公文書管理法に至る、いわゆる「組織アーカイブズ」の流れです。これは、歴史資料だから大事だということではなく、自分たち自身の組織を活性化するための材料として、重要な文書を残し、受け継いで、新しい組織づくりに役立てていくという考えによるものです。県政でいえば、そのような文書を県民が利用することで、県政のあり方を批判したり、説明を受けたりすることができる重要な役割があります。

滋賀県への期待
 先日、滋賀県が策定した「未来に引き継ぐ新たな公文書管理を目指して(方針案)」(pdf:536KB)には、本日私が話した内容が全て踏まえられています。特に県の地方機関を含めて考えられていることに、大きな敬意を表したいと思います。例えば、警察がもっている災害救助の資料は、これからの防災を考える上で重要ではないでしょうか。
 県政史料室には、今までの伝統の上に、県の「組織アーカイブズ」としての役割を第一義的に果たされることを期待しています。一方で、住民の諸活動の記録も、地方自治体のアーカイブズだと思います。できれば、そのような民間資料の所在情報を記録する中心的役割でもあってほしいと願っています。
     (中井善寿 滋賀県県政史料室)
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