The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin 全史料協近畿部会会報デジタル版 No.55 2017.9.5 ONLINE ISSN 2433-3204 |
■第139回例会報告■ 2017年(平成 29)7月28 日(金)14:00〜17:00 京都府立京都学・歴彩館 小ホール |
全史料協近畿部会第139回例会は、今年の春グランドオープンした「京都府立京都学・歴彩館」(以下歴彩館と略す)のお披露目の会で、講演と施設見学の2本立てでした。 まず、初めに今年度から2年間近畿部会の会長である福井県立文書館の江端美喜子館長から開催の挨拶をうけたあと、初代歴彩館長の金田章裕氏の「−京都学・歴彩館が目指すもの−」と題した講演がありました。 金田館長は、まず、京都府立総合資料館での収集・整理・保存・公開というアーカイブスとしての機能の一層の充実を図ったことを強調されました。例えば総合資料館での図書館機能のうち、一般図書を岡崎の京都府立図書館へ移し、歴彩館では京都学に関連する図書館へと差異化を追求し、蔵書数74万冊、(開架図書2万冊)と、京都関係の資料の充実が図られたことでした。さらに京都府立大学の図書館と同じフロアーに併設されたことで、大学図書館の特徴である専門図書が広く公開されて、一般利用者にとって利便性の拡大につながり、評価の一つにあげられるだろう。 次に、新しい方向性として、(1)大学との連携を図り、京都学に関するネットワークの構築。(2)デジタル化による閲覧。東寺百合文書に続き、陽明文庫所蔵資料のデジタルによる閲覧。(3)大・小ホールでの講演会の開催。(4)新規の取組として外国人による京都研究の支援、の4つをあげられ、大きな期待が寄せられるところです。 講演のあと、休憩を挟んで、書庫の見学でした。書庫は地下1階が国宝の東寺百合文書を収蔵する特定資料収蔵庫や図書収蔵庫T・貴重書等収蔵庫、地下2階が図書収蔵庫Uで、重要文化財に指定された明治から昭和前期にいたる行政文書9万点のほか、保存年限を満了した行政文書も収納されています。 見学の後、再度小ホールに戻って、質疑応答があって、5時ちょうどに終了しました。 一つ感想をのべれば、新しい4つの試みが、京都学が歴史や文化など多岐にわたるにしても、「京都学・歴彩館」の館名に象徴されているように研究に重点がおかれているようだ。「Kyoto Institute, Library and Archives」という英語の館名にあるArchivesが埋もれてしまわないか些か気になるところです。 また要望としては、歴彩館が1・2階、京都府立大学が3・4階に配置され、歴彩館と大学の連携が志向されるのであれば、旧総合資料館での50年にわたる資料保存の実績と膨大な資料の蓄積を踏まえ、京都府立大学にアーカイブス学科を開設し、アーカイブスの世界の周知とアーキビストの人材育成に寄与していただければと切に望むものです。 最後に、例会開催にあたっては、館長さんを始め歴彩館の職員の皆さんに大変お世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。 (和田義久 全史料協近畿部会運営委員) 歴彩館長 金田章裕氏 見学にむかう参加者 |
■第139回例会参加記■ |
京都府立京都学・歴彩館への期待 酒匂由紀子(枚方市市史資料調査専門員) 全史料協会近畿部会第139回例会は、平成29年7月28日(金)に京都府立京都学・歴彩館(以下、歴彩館)にて行われた。金田章裕館長による「−京都学・歴彩館が目指すもの−」というテーマの講演を拝聴したのち、歴彩館の施設見学を行った。 講演の内容は、京都の新たな文化価値の創造、貴重な歴史資料の継承・活用、文化力による地域の創生という歴彩館の位置づけや今後の展開についてであった。具体的には、歴彩館が京都学(京都の歴史・文芸・産業・景観などの多様な研究の総称)発展の核となるべく、京都府立文化博物館・京都府立図書館をはじめ、国内外の大学などの研究機関との連携をとりつつ、京都関係の資料収集・保存・公開、そしてシンポジウムや講座などの交流・発信を行っていくというものであった。 金田館長は、「京都の史料を京都でみることに意味がある」として、とりわけ、京都の資史料をより簡便に活用するための環境整備について詳しい説明をされた。例えば、歴彩館が所蔵する国宝の『東寺百合文書』は、すでに知られているように「東寺百合文書WEB」で閲覧できる。しかし、それだけで終わらせるのではなく、将来的にこの「東寺百合文書WEB」は、近く京都大学でネット公開予定である東寺の史料群である『教王護国寺文書』と情報をリンクさせていく予定だという。これは、二つの膨大な量の古文書群の情報をすり合わせるという、従来ならば大変な時間を要した作業を一瞬でやり遂げてしまえることを意味する。 他方で、これまで容易に閲覧できなかった陽明文庫の資史料のデジタル画像を閲覧できる部屋が新たに設置された。この部屋で閲覧できる資史料は、これからも随時、加えられていくという。これらは、「京都学」研究の促進に大いに貢献していくこととなるだろう。 講演の後、歴彩館の施設見学として、主に1階の展示室・京都学ラウンジと、地下の収蔵庫を拝見させていただいた。地下の収蔵庫には、先述の『東寺百合文書』用の桐で造られた収蔵ケースや、様々な前近代の資史料の収蔵庫のほか、公文書の収蔵庫も見学させていただいた。 なかでも公文書の収蔵庫では、重要文化財に指定されている公文書に珍しい収蔵ケースを使用していた。それは、(伝わるように表現ができずに申し訳ないが)資料を入れた資料箱を書棚にしまうというありふれた形ではなく、書棚にフタが付いているようなものであり、なおかつ落下防止の留め具が付いた特殊なものであった。また、公文書の収蔵庫の天井の高さにも驚いた。その高い天井に合わせた書棚は、圧倒的な収蔵力を持つと思われる。ちなみに、上部の棚の資料を出納する際には、特殊な乗り物を使用するのだという。こうした収蔵庫や書庫は、全て空調管理がなされていた。 施設見学の後、質疑・応答の時間が設けられた。そこでは、以下のような質疑と応答があった。 ・職員はどれほどいるのか、非正規職員を多用しているのか ⇒府立総合資料館の時の職員が主。開館時間が大幅に長くなったため、二交代制にした ・食事スペースはあるのか、売店などは入る予定があるのか ⇒食事スペースは整備中。他にも整備中の施設が多々ある ・府立総合資料館で所蔵していた資史料は、全て移行してきたのか ⇒現在、移行している途中にある ・府立総合資料館の時と比べて、あらゆる部屋に空調がきいているようだが、冷暖房費の予算が上がったのか ⇒今年度の電気料金の総額をみて、来年度から調整していく予定 応答の内容からもわかるように、現在の歴彩館は、未完成のまま稼動している状況にある。すなわち、まだこれからも、よりよく変化していく可能性を秘めているということであろう。 以上が今回の例会の内容である。歴彩館は、資史料の収集・調査・公開を行う施設として、設備・構想・ネットワークの面において、国内では抜きん出た、かつ、理想的なものになるであろうと思われる。研究者をはじめ、「京都学」にかかわる人々には、夢のような施設である。 一方で、歴彩館は、他の都道府県や市町村が新たに文書館や資料館を建設する際、また、既存の施設を改変していく際に理想的モデルの一つとして、必ず取り上げられていくと思われる。そうした時に肝要なのは、研究者でない人々や、「○○学」にほとんどかかわらない人々にこそ、これだけ設備の整った施設の存在意義や、他所とのネットワーク構築の必要性を説いていくことである。なぜなら、多くの納税者や自治体が充実した施設の建設をと望む対象は、必ずしも文書館や資料館とは限らないからである。特に福祉施設が不足している昨今ならば、なおさらである。 したがって、これから歴彩館が広く発信されていく様々な活動の成果は、「京都学」の研究の進展のみにとどまるものなのではなく、多くの自治体が文書館や資料館の理想的モデルの一環として注視していく、重要な意味をもつものとなってこよう。ひいては、歴彩館の活動成果には、日本中の文書館・資料館の資史料保存・活用の未来がかかっているともいえる。こうした観点からも、歴彩館の活動に期待の意味をこめて注目していきたいと思う。 |