The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin 全史料協近畿部会会報デジタル版 No.56 2017.9.18 ONLINE ISSN 2433-3204 |
■第140回例会報告■ 2017年(平成 29)8月12 日(金)13:00〜16:00 京都府綴喜郡宇治田原町郷之口会館 2階会議室 |
ワークショップ「体験してみよう! よその現場」 講師 島津良子氏(全史料協近畿部会運営委員) ワークショップの目的と舞台となった調査の概要 史料調査には、様々な条件がある。調査対象の史料の側からは、分量はもちろん、原所蔵者が現に所有・管理しているのか、一時的に借用しているのか、史料保存利用機関や大学の収蔵品となっているのか。調査主体側の予算・人員・期間・作業環境もそれぞれ異なる。その場その場で条件と制約にあった調査方法が必要になる。したがってある現場で得た知識や方法論が、別の現場でそのまま通用するとは限らない。しかし経験を絶対化するのではなく、俯瞰化・相対化しておけば、異なる条件の現場で応用して活かすことも容易である。そのためには、場数を踏むのが望ましいのはもちろんであるが、疑似体験によっても得るものは多い。今回の例会は、そうした観点から、京都府の委託により、講師島津氏が主宰している「宇治茶関連古文書調査」の現地調査を舞台にワークショップを行った。 郷之口区は、今回の例会会場となった鉄筋コンクリート2階建ての郷之口会館を持っており、文書は将来的にもこの会館で収蔵され続けることが想定されている。既に近世から現代に至る全102箱の文書の現状記録と、箱単位での概要調書の作成は終わっていた。現在は文書一点単位での付番とあわせての写真撮影に入ったところである。この調査は、5年という期限があるため、まずは、茶に関係し、かつ古い時代の文書が入った箱から優先して調査を行っている。そのため、今回のワークショップで扱った文書は基本的に近世文書である。なお、文書一点ごとの目録作成は現地では行わず、デジカメで撮影した文書画像を使って、別に進められつつあるという。なお、調査の主力メンバーは島津氏の教え子の大学院生で、ふだんの現地調査は長期休み期間中等に行われている。現に会館の行事予定表を見ると、8月中には11日間とびっしりこの調査の予定が記されていた。 ワークショップの内容 ワークショップではまず、どのような条件の調査でも踏まえるべき平等・出所・現状保存の三原則や、前述したような調査全体の概要や現段階での進捗について島津氏からレクチャーがあった。ついで、会館内の文書収蔵庫と収蔵状況を見学した後、具体的に次のような実習を行った。 作業前のレクチャー(島津講師) ・和紙小片貼付による文書番号付与 この調査で文書番号の付与と同定は、鉛筆で番号を書いた和紙小片を、生麩糊によって文書に貼付する方法で行っている。文書への影響を最小限に抑えるため、小片の全体に糊付けするのではなく、一部にとどめている。この方法を採っているのは、中性紙封筒を使うと、コストがかかるうえ、かさが増して従来通りの場所に収納できない、短冊類を挟む方法だとどうしても取り扱いの過程でバラバラになりがちなためだという。「目立ちすぎず、かつ見落とされることなく」をモットーに、原則史料の裏左下に貼付する原則で行っているが、様々な形態の文書の、具体的にはどこに貼付するかといった実習を行った。 ・文書撮影とデータ管理 撮影の際には、必ず箱番号や文書番号をターゲットとして撮影したうえで、現地では、効率を優先し撮影日とカメラ別のフォルダーを作って、ひたすらここに画像データを収納する。これを元データとして持ち帰ったうえで、後から文書一点ごとのフォルダーを作って、複製した画像データを入れるのだという。横帳等を傷めないで撮影する方法の体験や、パソコン上の作業中のフォルダーや後日整理されたフォルダー、さらにはこのデータを使って作成された目録データ等の見学を行った。 文書の撮影 ・「張り出し」法による絵図の撮影 この方法は、上から撮影すると画像がゆがんでしまうような大型絵図を、和紙で作った張り出しを絵図に生麩糊で糊付けしたうえで、この張り出し部分をガムテープ等で壁に固定し、横から撮影できるようにするもの。一辺が1メートル以上ある絵図を使って、張り出しの貼付から、壁への固定と撮影、さらには水を打っての絵図本体からの張り出しの除去といった一連の作業を行った。 ・生麩糊作成 表具用の粉末のものを原料に用いている。防腐剤等が入っていない分、長期的な文書への悪影響の心配は少ないものの、糊の状態のままだと作って数日で腐敗してしまうという。表具のように大量に使用するわけではないので、鍋で煮て作るのでは不経済である。そこで、湯呑茶碗に原料の粉末と水を入れよく溶き、電子レンジにかける方法で糊を作っている。この作業を実習した。 最後にそれぞれの感想を述べあったが、従来自分が経験した現場とはずいぶん違うのだな、という声が多くあがった。また、ふだんこの調査に関わっている参加者もあったが、そうした参加者からは調査の全体像がみえて参考になったという声が聞かれた。 (佐藤明俊 全史料協近畿部会運営委員、奈良県立図書情報館嘱託) |
■第140回例会参加記■ |
ワークショップ「体験してみよう!よその現場」に参加して 城戸八千代(尼崎市立地域研究史料館嘱託) 今回のワークショップに参加した目的は、私が勤めている尼崎市立地域研究史料館で行っている、古文書ボランティア作業に活かせる方法がないかを学ぶためでした。古文書ボランティア作業は、自主グループ「近世古文書を楽しむ会」の有志のメンバー8名程度で毎回作業していますが、目録の取り方の統一などが難しく、集団で作業する際のコツなどを学べれば、と思いました。 興味を持ったのは史料の一本化という話でした。欠号が埋まりそうな地方新聞や地方出版物を見つけた時は問い合わせをして、欠号が埋まるようならば、コピーまたは写真画像を所蔵者の許可を得て無償で提供するとのことでした。史料館でも、市議会の議事録が、議会事務局と史料館で、バラバラに保管されていたので、欠号を借りてきて、スキャンして複製を作っていることを思い出しました。利用者の利用しやすいようにする事は良い事だと感じました。 今回参加した宇治田原町郷之口会館の作業は、京都府委託宇治茶関連古文書調査として、郷之口区有文書102箱を悉皆調査するというものでした。5ヶ年計画で、毎年夏に調査を行っているらしく、調査は毎回10名程度が参加するとのことでした。 作業場所である宇治田原町は、確かに山の中でしたが、郷之口会館の周りは住宅も多く、会館も大きな建物でした。 会館の中のクーラーの良く効いた大広間で、まずは講師の島津良子氏から講義をうけました。 「平等、出所、現状保全の三原則」の説明があり、私たちも常に心がけている重要なことです。始めて調査に当たる方や、ボランティアにはきちんと説明しないといけない話だなと思いました。 また、業務日誌を毎回付けているとの事で、回覧してもらいました。毎回記録を残す事は大切なので、素晴らしいと思います。私の仕事場ではさまざまな業務を同時並行に行っているので、文書整理についてのまとまった業務日誌はなかった事を改めて気付かされました。 講義の後は、会館の倉庫を見学させていただきました。現在も使われている倉庫なので、雑多な物も沢山置かれていましたが、倉庫の奥に、古文書がきちんと整理されて置かれていました。箱や引き出しごとにナンバーが振られ、分かりやすかったです。 その後、写真の撮影を見学しました。写真を悉皆撮影しているとのことで、管理の仕方など学ぶ事が多かったです。 写真データの整理も独特の方法をとっておられました。撮影日ごと、箱別など、同じデータをいくつも違うフォルダに残すのは何か意味があるのだろうかと思ったのですが、様々な人がデータに触れるため、間違えて消去してしまうようなリスクを避けるためと聞いて納得しました。史料館では逆に、データの容量を減らすために、極力データが重複しないように心がけています。これも、現場の状況によるのだなと思います。 写真のキャプションが詳細なのはすごいと思いました。これも、一日に大量の文書撮影をするための工夫ですね。史料館では古文書の撮影は撮影台を使用しますが、撮影台がない中で、工夫して撮影を行っているなと感じました。 和紙ラベルは、和紙に手書きなのに驚きました。史料館ではインクジェット用の和紙に、インクジェットで印刷しています。多い文書群になると1000点を超えるので、一人で手書きするのは無理です。これは宇治田原町の現場が、人数が多いからなのかもしれません。史料館でも、下張り文書はがし作業というボランティア作業では、はさみで切った和紙に、ボランティアの方が手書きしています。 その後、絵図の撮影をしました。絵図の撮影は楽しかったです。 絵図の周囲に和紙で張り出しを作って、壁に張って撮影する方法です。噂では聞いた事がありましたが、実際体験するのは初めてでした。まずは張り出しの貼られた絵図を壁にガムテープで固定することから体験しました。壁にいざ張るとどうしても皺が出来てしまい、みんなであちこちのテープを外して引っ張って調整しました。なかなか難しかったです。でも写真も美しく撮れて、いい方法だと思います。 また、張り出した和紙を取る作業も良かったです。水で和紙がスッと取れるので、みんな安心したようでした。 その後、糊を作る体験をしました。沈のりを、電子レンジを使って作る体験でしたが、尼崎でも沈のりを使っているので、私は参加せず、見学させていただきました。みんな楽しそうに糊を作っていて、普段している作業が、こうした体験の一環になるのかと驚きました。みんな楽しそうだったので、いつか尼崎でもやってみたいです。 画像データの管理について学ぶ さて、今回の体験から、多人数で作業をする時には、明確な基準を作り、徹底する事が大切なのかなと感じました。明確な基準作りは難しいです。どうしてもイレギュラーな事態が起こりがちだからです。だからこそ、イレギュラーな事態が起こった時に、すぐに判断出来る様な基準作りが必要なのだな、と感じました。 貴重な体験をありがとうございました。 |
近畿部会研究例会のワークショップ活動 島津良子(全史料協近畿部会運営委員) 全史料協近畿部会では16年3月から例会企画の中で合計4回のワークショップ(以下WSと略称)を実施している。その内2回は京都造形大学の大林氏の協力を得てのWSで、料紙の紙質の見分け方や料紙調査法、修復技術の最新情報と伝統的修復技術の現代的改良について、残り2回は「体験してみよう、よその現場」というキャッチコピーの元で行われた大量文書の整理現場でのWSである。今、手元には16年3月大林WS(参加16名)と17年8月島津WS(参加9名、アンケート回答8名)でのアンケート回答がある。2種類のWSへのアンケート回答や参加者とのやり取りから考えたことを寄稿したい。 まず、参加者はどんな動機でWSに参加したのだろうか?大林WSも島津WSもともに「古文書に関わる仕事についているから」が最多回答(大林WS 11名、島津WS 4名)で、予想通り、参加者の大半が現場の実務担当者であった。さらに大林WSでは参加16名中9名が非正規職員、正規職員は3名、島津WSでも非正規職員4名、正規職員は0という状況も知ることができた。非正規雇用での実務経験年数は2〜5年という回答が多かったが、中には7年、20年という回答もあった。アーカイブの現場での非正規率は甚だしく、一例をあげれば某県立文書館のスタッフは合計11名、その内8名が非正規雇用である。アーカイブ機能を持つ機関での人員体制の多くが数年で移動する行政職員とその下で働く複数の非正規専門職員という構図になっている。しかも昨今その雇用は脱法行為とも見える5年雇い止めで更なる危機にさらされている。全史料協として、アーカイブ機能を持つ機関では最低1人の正規採用のアーカイブ専門職員の配置を、と働きかける必要を改めて痛感した回答であった。 アンケートの「所属先で研修の機会はありますか?」という質問については、大林WSでは「研修の機会はない」が10名、「仕事として参加できる研修機会がある」が4名、「機会はあるが仕事としてではない」が2名,島津WSでは「研修機会はない」が無回答の2名を除く全員、7名という結果であった。参加費用も「すべて自己負担」が最多回答であった(大林WS 8名、島津WS 6名)。これら機関の非正規専門職員以外の参加としては、資・史料の専門職に就くことを考えている学生と古文書の整理ボランティアの参加が目についた。学生参加者によれば、大学教育の中での資・史料取り扱いについてのトレーニング機会もかなり希少なようであった。アンケート結果からは、機関が研修機会のない非正規職員に専門実務を依存し、大学教育の中でもアーカイブについての実務教育が乏しい現状では、近畿部会が自費でも参加しやすい近距離でのWSを開催する意義は十分にあることが確認できたと思う。 次にアンケートから見える課題について。その第一は、WS情報の周知と参加者募集についてである。WSのことをどこで知ったか、という質問で最も多かった回答は、「職場や知人からの誘い」であった(大林WS 6名、島津WS 7名)。所属機関が全史料協の非会員であると、メールを送りチラシを郵送しても情報は非正規職員まで届かないことが多い。機関会員であるアーカイブ施設が機関内の非正規職員にも声をかけて、仕事として職員を派遣するという望ましいパターンは希少で、結局WSに関わる個人会員が積極的に声掛けをするかどうかが周知を左右している。当然、機関会員を増やす努力がさらに必要なのであるが、現状では個人的声掛けを強化するしかない。研究会開催を知らせるマンスリーの個人メールあて配信と同時に周辺への積極的参加勧誘を依頼し、毎回の参加経験者や運営委員、役員、WSスタッフなど、積極的声掛けをしてくれる人たちへのWSチラシの複数配布がすぐにでも実行できる手立てで、ある程度の実効性があると思われる。これらの人たちの周辺にはまだまだたくさんの非正規専門職員がいると思うからである。そして、今回は見送ったが、参加応募への下地作りとして、WS開催前にマスコミ情宣を行なうことも効果的かと思われる。マスコミ取材の受け入れが前提であるが、これは全史料協の活動を一般に知ってもらうことにも役立つ。ただし情宣の結果、非会員の、興味ある個人の参加ばかりになった場合、WSの趣旨から考えて、それで良いのかが問題ではある。今回この情宣を見送ったのも理由はここにある。 類似の問題であるが第二に、アンケートの回答や参加勧誘のプロセスでの反応からは、機関の非正規専門職員と学生以外のもう一つの参加者グループとして、整理ボランティアと地域の資料館や古文書サークルでの解読ボランティア、古文書所蔵(管理)者、古文書解読講座の受講生など、古文書に興味のある個人というWS参加希望層があるように思えた。全史料協を実務担当者の横の連絡協議会ととらえ、WSを実務者会員への研修機会の提供と考えるならば、これらの層への更なる声掛けについては迷うところもある。今後さらにボランティアの活用は増えるであろうし、これらの人たちへのアーカイブの研修は不可欠なように思われるが、資料の現地保存の担い手の育成、機関を支える地域住民という層への企画として、現在のWSとは別に入門的アーカイブ講座が必要なのかもしれない。今後WS企画を例会活動の中でどのように位置づけていくのかに関わる問題と考えられる。 第三に会員への還元という視点からWSを見てみたい。近畿部会の機関会員は中心部機関の退会によって、近畿の中心部よりも周辺部に多い。必然的にもっとも研修機会が少ないと思われるその機関の非正規職員も周辺地域から参加する。近場での開催とはいえ、交通費はけっこう多額となる。個人会員は1年間に親会である全史料協(6000円)と近畿部会費(2000円)計8000円の会費を負担している。非正規職員に限定しても良いので、繰越金の使い道としてWSや例会活動への交通費の助成はできないだろうか。また、国文学研究資料館のアーカイブカレッジ(史料管理学研修会)地方開催を近畿部会が共催する活動もある。このアーカイブカレッジに参加する会員への参加費や交通費などへの助成があれば、地方の会員へのサポート活動になるのではないだろうか。 第四に、筆者がWS企画に2年間4回参画してみて、感じたことを少々。大林WSでの参加者からは「最新の専門的知識の研修は興味深く、なかなか知る機会が少ないので勉強になったけれども、これらの技術をアーカイブの現場で直接生かすのは難しい」という意見をもらった。専門的修復技術の水準とアーカイブ現場での実務としての資料保全との間には確かにかなりの距離がある。ただ、記録資料についても重要な資料については今後補修、保全のアウトソーシング(外注)が進むことが予想され、補修技術の最新知識なしに機関の実務者が仕様書や報告書を書くことができるのか、とも思える。また、「体験してみよう、よその現場」のWS参加者の感想には、予想通り「他の現場を実際に見る機会はほとんどない、こんなに現場、現場で違うのかと思った」というものが多かった。実務には携わっていても横のつながりがなく、自分の与えられた仕事の範囲のやり方、知識しかないという現状が想像できた。そんな中で、水を打てば剥がせる沈糊の使用、美濃紙小紙片を付箋状態で張るラベリング、電子レンジでの糊作りや大型絵図に「張り出し」をつけての壁面での撮影法など、独自の現場手法を取り入れてみたい、取り入れている、という声もあった。逆に予想しなかった質問は、「どうやれば次の世代が育つのか」という質問であった(第140回例会参加記参照)。スタッフの成長はごく自然な成り行きに思えたので、調査を続けていれば「おのずと育ってくる」と答えたらしいが(記憶に残っていない)、参加者には若いスタッフのサポート的働きについて強い印象があったようだった。調査員のほとんどが学生という筆者の現場では、必然的に調査員は数年で卒業していなくなる。そのため養成は調査期間のみ、ごく短時間でおこなうしかない。調査期間中次々に仕事を変えていき、同じ仕事を2、3回も経験すれば、その仕事を新しい学生に教えさせる、というやり方で仕事を覚えてもらうので、長期調査に数回も参加すれば、ほとんどの現場作業を経験した立派なバイト頭が誕生する。このサイクルが機関の現場では成立していないらしい。機関の現場実務者はたった一人で作業しているのか、と思わせる質問であった。 最後に、今後どのようなWSが求められるのか、について、アンケートの回答(複数回答あり)にヒントを求めるならば、「公文書の選別と公開、マスキングの判断」が4名、「軸物・巻子の取り扱い」が3名、「古文書の保全と補修」が2名、「写真撮影やスキャニングの技術」、「写真資料の取り扱い方」、「地図、図面類の取り扱い方」が各1名(島津WSのみの設問)という結果であった。もう少しこれらの要望に応えるWS活動を続けてみようと思う。会員の皆様、ふるってWSにご参加ください。周辺の人たちにWS参加と会員加入を呼び掛けてください。WSだけではなく、同じ仕事をする仲間の横のつながりは必ず力になるはずですから。 |
■第134回例会参加記■ *昨年度例会の記録を掲載しています。 2016年(平成 28)8月20日(土) 京都府綴喜郡宇治田原町郷之口会館 |
枚方市・市史資料室における資料整理について 宮本直美(枚方市教育委員会文化財課市史資料室:[当時]) 今回、枚方市の市史資料室(以下、枚方市史と略記)における資料整理の方法を紹介する機会をいただいた。ワークショップで学んだことと枚方市史での資料整理との相違点を挙げて欲しい、と依頼を受けたが、細かな点をすべて挙げると分量も多くなるため、簡単に説明したい。 宇治田原町で進められている資料整理は、時限的な、多人数での作業で、調査報告書を作成するという目的で行われている。当然ながら、枚方市史での資料整理とは目的が異なるため、方法もまた異なる。枚方市史では長期間にわたる、1人または2人というごく少人数での作業で、目録作成までを目的とした資料整理が主である。そのため、画像データ化、翻刻などは省いている。 現在、枚方市史では市史資料調査専門員2名が在籍しており、資料調査や整理にはその2名が当たっている。資料を預かって資料室内で作業する場合は、所蔵者の了解を得て期限に猶予のあることが多いため、文書目録の作成は1人で担当する。 蔵出し作業から始まる所蔵者宅での調査では、撮影、掃除、内部の確認や資料搬出などすべて2人で行い、同時に方針を決定しつつ目録を作成した。1人がデータを入力し、もう1人が付箋を挟むなどの作業を行った。 宇治田原町では箱や棚の位置により北、東などの方角やアルファベットの箱番号が付されていたが、枚方市史ではすべて数字の連番で統一している。また箪笥などに入っている資料は予め準備した箱に入れ直している。この方法では位置関係を一目で把握することは難しいが、収納されていた場所や一括関係はできるだけ崩さないよう、薄葉紙で包んでまとめるなどして同じ箱に収める。 資料の付番については、付箋、ラベル、封筒などを用いた方法があり、枚方市史では通常ラベルを貼付しているが、和綴本や冊子類が多い場合は付箋、資料の破損の程度により散逸防止のため封筒を使用することもある。ラベルは図書ラベルのような枠を印刷した和紙を用いている。島津氏から指摘があったように、枠のサイズが大きいと資料に貼付しづらいため、枠の外側を切り落として使用している。 今回のワークショップでは、枠などが印刷されていない普通の和紙(美濃紙)を小さく切り、三段にわけて文書番号等を記し、上部のみを糊付けする方法を知った。切る手間は同じでも印刷費用はかからないため安価であるし、貼る部分の面積が小さければ文字に重ならないよう貼ることもでき、文字を読む時には邪魔にならない。葉書など全面に字が書かれている場合を例に挙げられていたが、私たちも貼る箇所に悩むことも多く、この方法は参考になった。枚方市史では封筒に入れたり、帯を作ったりした上でラベルを貼っている。 資料整理において、どのような方法を採るかは整理者の判断や資料の状態などによるが、様々な方法を知っていなければ選択もできない。近畿部会の例会には何度か参加しているが、具体的な整理方法まで知る機会は少なかったので、今後、他の機関の資料整理について見聞する機会を持っていただけたらと思う。 |
絵図の撮影 |
ワークショップ当日にうかがいたかったことなど 河野未央(尼崎市立地域研究史料館) 今回のワークショップで紹介された古文書の整理・調査の「現場」は、人・費用・時間が限定されるなか、効率化を図るために合理的かつ体系的に構築されたものであった。そうした「現場」の姿を実際目にし、またワークショップとして体験することができたことは、大きな刺激となった。こうして体験した「よその現場」と、自らの「現場」、尼崎市立地域研究史料館(以下、史料館)での整理・調査方法とを比較すると、おのずと疑問・感想なども浮かんでくる。ここでは当日浮かんだ疑問点のうちの2点を述べてみたい。 最初に聞いてみたかったのは、「時間」と密接にかかわる「人」の問題、現場での人材育成の問題である。史料館では、古文書担当は筆者と嘱託職員を含め3名。いずれも様々な業務を抱えており、常時整理作業にたずさわれるわけではない。そうしたなかで、少しでも整理・調査事業を進めるためにボランティアの方々にもご尽力いただいているが、一方で、ボランティア作業に関しては、作業現場の取りまとめや調整など、職員の「見えない」業務が増加してしまうという課題にも直面している。この手の業務の増加は、そもそも史料館の体制作りに課題があるかと思われるが、いまなお解決が図れていない。 今回のワークショップの現場では、各作業段階(撮影、概要調査、PCでのデータ整理等)の取りまとめができる、「中核」となれるスタッフが数名いらっしゃった。こうした中核(ボランティア作業の場合は、ボランティア・リーダー)的な存在の有無が上記課題解決の糸口になるのでは、と考え、当日島津氏にお尋ねすると、「調査を継続すれば、おのずとそのような人材が育つ」とのことであった。もっとも「おのずと」育つのは、構築された調査体制そのものについて、随所に細かな工夫があってこそだろう。調査の実施頻度なども影響あろうが(史料館では月1回の定期作業)、そうした工夫などは、もっとお聞きしたかったし、他の現場の状況もうかがいたかったところである。 いまひとつは「蔵出し」に関してである。筆者は歴史資料ネットワークの活動に関わっていることから、大規模自然災害時の蔵出し(史料の救出)についての経験は多少ある。しかし、個人的には、日常時の調査における蔵出しの経験は、必ずしも多いとは言えない。史料館職員として、いざ現場を取りしきることになったら…と考えると、正直不安に思うところもある。 しかしながら、史料の救出に際しては、災害時以前に実施された日常時の概要調査がいかに重要か、ということは、東日本大震災時の宮城歴史資料保全ネットワークの活動事例、また白水智氏著『古文書はいかに歴史を描くのか―フィールドワークがつなぐ過去と未来』(NHK出版、2015)で紹介された長野県北部地震での栄村の事例などでも強調されており、実績報告もあがっている。今回のワークショップでは、その一端に触れる貴重な経験ができたが、もう少し蔵出しや概要調査について、様々な現場での、作業段取りや方針等技術的な面も含めた情報・知識の共有ができれば、個人的にはありがたかったと思う。 ワークショップで体験した内容を、自らの「現場」に持ち帰り、どのようにして活かしていくかは、参加者一人一人の課題である。しかし、せっかく現場を持つ人々が集うワークショップ(体験)なのだから、意見交換等アイデアを出し合う「場」もほしい、と願うのは欲張りであろうか。 筆者がかつて講師を務めた、歴史資料ネットワークで開催する「水濡れ史料の乾燥ワークショップ」では、参加者が何気なく口にした感想が大きなヒントとなり、そのアイデアが次の現場の作業へと活かされていく、ということが少なからずあった(ちなみに同ワークショップは、現在も史料ネット若手メンバーによって実施されているので、機会があればぜひ体験いただきたい)。ワークショップという体験の場は、こうした良い作用を生む力を持っている。全史料協近畿部会例会では、今後もぜひこうしたワークショップ企画を継続していただくとともに、さらに意見交換の時間もあわせてとっていただければ、と願っている。 |