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 The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
 全史料協近畿部会会報デジタル版
 No.59  2018.2.7 ONLINE ISSN 2433-3204
 第142回例会報告
2017年(平成 29)12月21日(木)
会場:尼崎市総合文化センター


全国(神奈川相模原)大会・
国際文書館評議会(ICA)2017年次会合(メキシコ)の報告会


 第142回例会は、2017年11月の全史料協第43回全国(神奈川相模原)大会、およびICA2017年次会合(メキシコ)という2つの催しについて実施内容を参加者で共有するために開催した。司会は吉原大志氏(三木市史編さん室)が務めた。
  全国(神奈川相模原)大会の企画・実施報告(松岡氏)
  全国(神奈川相模原)大会の企画・実施報告
(松岡氏)  

全史料協第43回全国(神奈川相模原)大会について

 第43回大会は、11月8・9日に杜のホールはしもとにおいて「公文書館法30年―今、問われる公文書管理―」を全体テーマとして開催された。まず、松岡から、大会プログラムの決定過程、各研修・報告の骨子、アンケートの概要を報告した。ついで、大会参加者3名からそれぞれコメントをいただいた。上甲典子氏(亀岡市文化資料館、大会・研修委員)は、個人会員として大会運営に関わった感想を述べたうえで、特に大会テーマ研究会第2部の座談会ではアーカイブズが地域資料を含む歴史資料全般を取り扱うことについて批判的な意見が出されたものの、十分応答することができなかったと述べた。また、参加者の立場からとして、平井俊行氏(京都府立京都学・歴彩館)は特に大会テーマ研究会第1部の鳥取県の取り組みについて、松田憲子氏(奈良県立図書情報館)は調査・研究委員会の津久見市での資料保全活動など、それぞれ印象に残った研究会の内容を紹介してコメントした。
  大会についてのコメント(平井氏) 大会についてのコメント(上甲氏) 大会についてのコメント(松田氏)
  大会についてのコメント(平井氏・上甲氏・松田氏)

 以上の発言を受けて、質疑応答に移った。主たる点を2つの点から整理しておく。第1点は、歴史資料との向き合い方である。フロアからは、1)今大会が公文書法30年をテーマに据えたことで、組織の役に立つ・説明責任を果たすことがアーカイブズの役割という主張が強く出た傾向がある、2)昨今の時事的問題からアーカイブズの役割を訴えるための論法として組織アーカイブの役割が強調された面もあると考えられる、3)一方で、全史料協は地域資料を含む歴史資料全般を問題も取りあげてきたのであって、組織アーカイブ・地域アーカイブは出所の違いにすぎない、4)組織アーカイブ・地域アーカイブともに地域の現実的な課題解決に用いられており、そもそも両者は対立するものではないといえる、などの意見が出た。第2点は「専門職」問題である。アーキビストの専門性やその養成のあり方や、全史料協で歴史資料の保存を訴えてきたが、近年はデジタルで初めてアーカイブズを知る、組織アーカイブの議論をまず学んで関わってくる世代が登場しつつある状況であり、機能としてアーカイブズに触れる環境が整いつつある時期だからこそ、それを担う専門職の配置をしっかり訴えていく段階にある、といった意見が出された。以上のように、次年度の沖縄大会や全史料協としての今後の取り組みのありかたをめぐって活発に議論がなされた。

  ICA2017年次会合の報告(辻川氏)
  ICA2017年次会合の報告(辻川氏)

ICA2017年次会合(メキシコシティ)について
 ICA2017年次会合は、11月27〜29日にメキシコ社会保障研究所21世紀医療センターにおいて「Archives,Citizenship,Interculturalism」(アーカイブズ、市民権、国際異文化)をテーマとして開催された。辻川敦氏(尼崎市立地域研究史料館長)が国立公文書館の推薦を受けて会合に出席したことから、会合プログラムや感想を報告した。

 今回の会合における日本からの発表者は3名であり、専門セッション3「アーカイブズ、説明責任、情報へのアクセス権と個人情報保護」パネル3では、福井仁史氏(国立公文書館理事)が日本の国立公文書館における公的歴史資料へのアクセスを確かなものとするための取り組み状況や、国立公文書館の新館計画について報告した。専門セッション4「アーカイブズ、環境、自然災害」パネル3では、熊谷賢氏(陸前高田市立博物館主任学芸員)が、東日本大震災で津波被害を受けた同館の資料保全の取り組みについて報告した。辻川氏は、専門セッション12「地域的協力」パネル2で、地域社会との協働に関する尼崎市立地域研究史料館の取り組みについて報告した。このうち辻川報告については、当日投影したスライドを用いた内容紹介があった。言語の問題もあって、議論を深めることには課題もあったとのことであるが、各報告は北米・中南米圏からの参加者に日本国内の状況を伝える機会となったといえる。辻川報告を受けて若干の質疑応答を行った。

 今回の例会は、大会に参加することができない会員へのフォローアップのための例会を期待する近畿部会総会出席者の発言を受けて企画された。例会参加者は19名であり、うち全国大会参加者は定兼学氏(岡山県立記録資料館長、全史料協会長)を含む12名であった。通常の例会に比べれば参加者こそやや少なかったものの、大会に参加できなかった人への伝達という目的はある程度果たせたものと考えられる。また、大会参加者にとっても当日の議論について、それぞれ理解を深める場となったといえよう。また、ICA年次会合という参加が難しい催しについても情報提供があったことで、それぞれ会員に資するところがあったと考えられる。
松岡 弘之 尼崎市立地域研究史料館、全史料協大会・研修委員会事務局)

   
 
参加記
公文書館法30年に想う
   和田 義久(元枚方市教委文化財課市史資料室)

 今までに近畿部会の例会で、全国大会でどんな報告やテーマに即した議論がなされたのかを報告する例会はなかったように記憶していますが、今回、全国大会に参加できなかった会員への報告会ができたことは、遅きに逸した感はありますが、尼崎市立地域研究史料館が大会・研修委員会事務局を引き受けられたこともあり、また公文書館法制定30年という時期にかなった例会でした。
 例会では、三木市史編さん事務室の吉原大志さんの司会ではじまり、最初に大会・研修委員会事務局で、尼崎市立地域研究史料館の松岡弘之さんが2日間の全体の流れを簡潔に説明され、そのあと亀岡市文化資料館の上甲典子さんが大会・研修委員の立場から、また京都府立京都学・歴彩館の平井俊行さんと奈良県立図書情報館の松田憲子さんが、参加者の立場から、それぞれコメントをされました。

 私は全国大会に参加したこともあって、例会当日はメモをとらなかったので、三人の方のコメントについて詳細な報告できないのですが、私自身の関心からいいますと、平井さんのコメントが印象に残っています。平井さんは、同じ府県の立場から、鳥取県立公文書館長田中健一氏の「鳥取県における市町村等と連携した歴史公文書等の保存と活用の取組」の報告についてコメントされました。鳥取県では、平成24年に公文書管理条例を制定し、公文書のライフサイクルに合わせた管理ルールを定められました。@公文書の収集対象を知事部局だけでなく、各種行政委員会も対象とする。A永年保存をやめ、30年保存に変更し、歴史的公文書の公文書館への引継の道を明確にされました。また、県内の市町村との連携もさぐっておられ、その取り組みも紹介されました。それに対して、平井さんは、収集の対象機関の拡大や永年文書の扱いなど、今まさに京都学・歴彩館で問われている課題であると、締めくくられました。それは、また枚方市の課題でもあります。

 記憶の定かでない報告はそれぐらいにして、私自身が全国大会に初めて参加したのが30年前の広島大会だったこともあり、私なりにこの30年を振り返り、気付いたことをメモにしました。
 まず第1に、公文書館法施行から30年の間に、日本各地で公文書館が設置されました。正確な数字は知りませんが、府県レベルでは全都道府県の設置は近い将来実現するでしょうし、市町村でも数は少ないものの、設置数は徐々に増加しています。この事実をまず確認すべきだと思います。そして、その設置の動きに、全史料協が大きな役割を果たしたことも併せて確認されるべきでしょう。
 第2に、全史料協の調査・研究委員会が取り組んできた、公文書館の設置が困難な市町村では、当面担当部署で公民館的機能の果たすという流れです。
第3に、市町村での公文書館設置が少ない中で、都道府県の公文書館がイニシアチブを
とって、府県内の市町村に情報提供や連携した取組の動きです。たとえば、滋賀県では、県内市町村を対象に「歴史的文書を考える」をテーマに講演会を開催されています。この滋賀県の取組は、ご承知の通り近畿部会と連携したものです。かつて大阪府公文書館も、府内市町村へのアーカイブスの浸透を図るため講演会を開催していたこともありました。
 第4に、阪神淡路大震災での被災資料の救出から始まった資料救済の課題です。
 第5として、公文書管理法の制定です。作成・収受から整理、公文書館への引継または廃棄のライフサイクルに応じた管理です。これは、資料を扱う一部署の問題でなく、自治体全体に関わる課題です。文化財レスキューで、現用文書は対象外にされるという新たな事態は、公文書管理の観点からも、公文書管理の中に位置づけるべきではないでしょうか。
 第6に、インターネットの普及による資料提供です。文書目録や古い写真などの提供が一般化しています。全国大会では尼崎市立地域研究史料館の西村豪さんが「市民協働によるデータベース構築」を報告されました。例会では、紹介のみで報告はなかったのですが、例会終了後、特別に説明していただきました。西村さんご自身がシステムを開発されたことにまず驚かされ、その構築されたシステムの、綿密さとデータ量に圧倒されました。
 そして、最後に7番目として、例会のもう一本の報告とも関係するのですが、市民との連携です。大会・研修委員会委員長で、尼崎地域研究資料館長の辻川敦さんの国際文書館評議会(ICA)2017年次会合(メキシコ)の報告「地域社会との協働関係に関する尼崎市立地域研究資料館の取り組み報告」は、ICAでは質問もなく、あまり関心も持たれなかったらしいのですが、私にとても興味深い内容でした。聞きながら思ったことは、尼崎の取り組みの一つ一つに、その背後に市民の姿が浮かびあげってきたことです。データベースの蓄積でも、古文書の整理でも、写真の整理でも、多くのボランティアに支えられていました。ボランティア・利用者と連携して事業を進めるという関係が築き上げられていたのです。そして、市民文書館というイメージがそこからうまれたのでしよう。これは、公文書館法制定後の公文書館の一つの在り方であり、現時点での到達点であると思います。

 30年前、公文書館法が制定されとき、ほとんど想定されていなかったことが、その後の流れのなかで、ひとつひとつ立ちはだかり、その克服の一歩一歩が、何よりの成果として蓄積され、今後に引き継がれていくことを期して、報告を終ります。
 辻川館長はじめ、職員・ボランティアの皆様に心からお礼申し上げます。

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