The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin 全史料協近畿部会会報デジタル版 No.66 2019.1.9 ONLINE ISSN 2433-3204 |
■第149回例会報告■ 2018(平成30)年12月1日(土) 会場:尼崎市総合文化センター |
第44回全国(沖縄)大会報告会について 近畿部会では昨年度から全国大会の内容を振り返る例会を開催している。今年度も、11月8日・9日に沖縄県市町村自治会館ほかで開催された沖縄大会についての報告会が、尼崎市総合文化センターで12月1日(土)に開催された。参加者は10名で、うち大会参加者は6名であった。司会は大会・研修委員の上甲典子氏(亀岡市文化資料館)が担当された。以下、当日の実施内容と感想について紹介する。 まず、松岡(大会・研修委員会事務局)から「第44回全国(沖縄)大会について」として、昨年度の相模原大会の成果と課題を踏まえ大会テーマを「アーカイブズ再考―その価値と活用―」とした議論の経過、両日の5つの研修会と調査・研究委員会報告、大会テーマ研究会の各報告の内容紹介と参加者アンケートでの反応などについて報告した。加えて、来年度大会が開催される安曇野市文書館の開館にいたる経過について若干紹介した。大会の報告内容はいずれも力の入ったもので、全史料協ウェブサイト掲載の沖縄大会冊子、およびアンケート(後日サイト掲載予定)もあわせて参照されたい。 全国大会の企画・開催について 松岡報告 続いて、辻川敦氏(大会・研修委員長、尼崎市立地域研究史料館長)が、沖縄大会の企画に関するポイントとして、総会の分離開催と会員表彰と大会宣言を実施したこと、相模原大会の反省としてアーカイブズがどう有用かをアピールするため「価値と活用」という点を打ち出したこと、沖縄県の事例を盛り込むことなどから大会を企画したことなどをコメントした。 その後、登壇者の立場から林美帆氏(公害地域再生センター)と、参加者の立場から堀井靖枝氏(滋賀大学経済学部附属史料館)のお二人にコメントをいただいた。林氏は、総合討論で意を尽くせなかった点として、来館できない利用者に資料を届けていくためにもデジタル化を推進していくことの重要性を述べた。林氏には、トピック的に目玉資料を中心に公開していけばよいとする総合討論での加藤聖文氏の主張は、来館できない者のためのサービス展開として不十分であり利用者を研究者に限るものに映ったようである。公害問題を過去の問題としてことさらに取りあげて欲しくないという風潮への危機感があることも強調された。 全国大会についてのコメント1 林報告 堀井氏は、自身が参加された、視察・鳥山報告・久部良報告と2日目のメニューについて、それぞれ感想を述べられた。こちらは本号掲載の堀井氏の参加記を参照していただいたほうがよかろう。 休憩を挟んだ後の意見交換では、総合討論での応答に関する確認や感想などが出された。アーカイブズとしてのポリシーの必要性は、デジタル化に限らず明瞭であるべきだが、日々の実務に追われるなかでの苦労などがそれぞれの現場にそくして発言があった。また大西愛氏が会員表彰を受け、表彰者代表として近畿部会の立ち上げられた頃の思い出を語られたことから、話題は近畿部会の大会への関わりへと及び、関東部会のように部会から大会に派遣して毎年報告会を開催してはどうか、といった提案もあった。なお、関東部会でも12月20日(木)に同様の全国大会報告会が開催されたとのことである。大会に参加できなかった方からは、所属の実務に引きつけた受け止めや、大会アンケートの設計などについて意見をいただくこともできた。これらは2月に予定されている第4回の大会・研修委員会で共有したうえで秋田県への引継ぎを行いたい。 意見交換1 尼崎としては、相模原・沖縄大会の務めを、どうにか果たせたところである。いずれも開催地のたいへんなご尽力いただいた。初めて事務局を引き受け、委員の方々にさまざま教えていただきながら、各地の活動を実地に接することができたことは、いつか振り返って尼崎の貴重な財産となっていくこととなろう。しかし、今回の報告会は、まだ各種の清算業務が続くなかで、事務局としても大会の成果と課題を充分咀嚼することができないまま、やや表面的な紹介にとどまってしまうのではないかと少し心配していた。当日の参加者それぞれの発言は、当方の不足を補っていただき感謝している。鉄は熱いうちに打てといったところか。週末の開催ということもあって、参加者は少なかったものの、それもかえってそれぞれ思ったことを気兼ねなく発言できる雰囲気をつくっていたといえるかもしれない。とはいえ、昨年度の相模原大会報告会はICAメキシコ大会報告会を兼ねたこともあって、参加者はもう少し多かったし、企画の持ち方はもう少し工夫が必要かもしれない。もっとも、議論で出たように、大会・研修委員会に限らず全史料協各委員会の事務局は2年の持ち回りであり、各委員会の企画や大会内容についての全体的な調整や一貫した方向づけという点で課題も感じている。 沖縄の事例を紹介したことや宣言を発表したことなどから、地元紙でも報道があった。また、東日本大震災にともなって作成された行政文書の実態調査を行った調査・研究委員会報告についても、この例会が終了した後で河北新報(宮城県)で報道されるなど、やはり記録の保存・活用についての関心は高い。尼崎市は次年度以降、近畿部会事務局を福井県から引き継ぐ予定で、調査・研究委員会は徳島県が担当されるなど、近畿部会会員が引き続き全国でも役割を果たしていくことになる。運営に向けて色々課題はあろうが、大会に関する意見などについては、引き続きお知らせいただき、安曇野大会に多くの参加者があることを期待したい。 (松岡 弘之 尼崎市立地域研究史料館) |
■参加記■ |
全史料協沖縄大会 熱い2日間の報告を尼崎で 堀井 靖枝(滋賀大学経済学部附属史料館) 全史料協第44回全国(沖縄)大会「アーカイブズ再考−その評価と対応」報告会が、去る12月1日午後の3時間、尼崎市総合文化センターにおいて開催された。 最初に大会研修委員会事務局を務められた尼崎市立地域研究史料館の松岡氏による大会企画・開催についての全容が、参加者アンケート結果の数値、コメントも踏まえて紹介された。準備段階でのテーマ策定の裏話から、施設研修でのエレベーターアクシデントまで、当日の光景がよみがえる詳細な報告内容だった。研修委員長の辻川氏(尼崎市立地域研究史料館長)によれば、大会の準備会議は全部で4回、直前の現地視察を兼ねたものを除けば3回に過ぎず、それぞれに本務の側らここまでの大会運営をされたことに一参加者としてお礼を述べたい(特に研修委員としてご苦労された上甲氏には、初日の見学会からたいへんお世話になっており、近畿部会メンバーが多く大会運営に活躍されたことは何よりも嬉しかった)。 松岡氏の参加者アンケートにも例示されていたが、大会テーマについての、「文書を整理・保管し、さらにその活用までを文書にたずさわる側が積極的に考えていこうというテーマはこれからのアーカイブにとって非常に重要な提起であった」とあり、私も同様の思いであった。また、「テーマ、各報告の位置付け、実際の報告内容の三者が必ずしもうまくつながっていないように感じた」との意見には、立場の違う報告者の内容はつながらなくて当然のことであり、翻って参加者各自に引きつけて考えられる事例報告だったかと思う。 全国大会についてのコメント2 堀井報告 今回の近畿部会での報告会は、出席者の半数以上が沖縄大会参加者であったため、私は一個人としての感想を述べたに過ぎないが、以下に記させていただく。 最初の研修場所の沖縄県公文書館の印象はその規模、事業内容ともに素晴らしく、見学バスに同乗された公文書管理課管理運営主任の新垣氏の「日本一の公文書館を自負する」という言葉は頷けた。中でも閲覧のために劣化史料を修復・撮影するという手間は、日頃破損史料にもどかしい思いをする現場にあって羨望を感じた。次の南風原文化センターは、体験型展示はもとより、文教地区にあって地元の方たちのワークショップが盛んに行われている場を目の当たりにし、地域に根差した館であることを感じた。また、現代の生活用品までも、重複をいとわず受入れている姿勢に感心した。 研修C「阿波根昌鴻資料の意義と調査活動の歩み」、研修E「語られる沖縄戦」では、資料の残存の少ないところを地域の方の収集による資料で丹念に補うこと、戦争体験証言収集ではオーラル記録採訪の難しさ、個人情報に直面せざるを得ない状況での丁寧な対応等が印象的だった。また音声データが活字やDVDで学校教材に活用されていることも有用なことと感じた。 大会テーマ研究会は、沖縄県文書館の業務を委託されている沖縄県文化振興会大城氏による「アーカイブズが社会にもたらすもの−琉球政府文書の利用状況から考える」、公害地域再生センターの林氏「人権とアーカイブズ 西淀川公害を例にして」、国立歴史民俗博物館の後藤氏の「資料のデジタル化がひらく未来を改めて考える」の3報告であった。 大城氏の所属される(公財)沖縄県文化振興会は、沖縄県公文書館の設立時から指定管理者として、同館の事業運営(公文書と歴史資料についての移管(収集)から閲覧提供まで)を担ってこられている。幸い事前に同館を見学させていただいており、指定管理者制度での運営例に好印象が持てた。次に林氏の報告は、西淀川公害裁判で企業から得られた和解金で設立された財団法人公害地域再生センターでの活動についてのものだった。地道に発信されている「あおぞら財団」の活動は、本来の市民のためのアーカイブズとしての意義を持つものと思う。最後の後藤氏の発表は、所在資料の一元的なデジタル公開というものであった。利用者、ことに研究者にとって、この利便性は願って止まないことではあるが、大学共同利用機関法人が主導するこうしたシステムの運用については、もう少し収蔵機関(現場)との議論が必要なのではと感じた。 意見交換2 今全国大会では、久方ぶりの功労者表彰があった。表彰者を代表して近畿部会の大西愛氏がスピーチされた。そこでは、関東部会がうらやましてく、近畿部会を作りたいと切望されたとの発会のエピソードを明かされた。彼女は親会に対しても、「近畿の人が阪神淡路大震災以来、防災には関心が高かったので、防災委員会には当然近畿地区の人を入れなければ」(大西氏談)という思いから自らが委員として積極的に参加されていた。大西さんはじめ、近畿部会では例会および元興寺の吉井氏が主催される古文書部会(後に島津氏が引き継がれた)で、機会あるごとにお世話になった。会長定兼氏の懇親会でのスピーチにあった、全史料協が人(アーキビスト)を繋ぐ場所であるというのは、まさしく自身にとっての実感であり、定年の後もここで学んだ知識と人のご縁は、地域の史料保存に通じることを再確認する大会参加だった。 |