近畿部会トップページ

全史料協近畿部会会報デジタル版ロゴ

The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.70
2019.11.30 ONLINE ISSN 2433-3204

第153回例会報告

 

2019年(令和元)10月21日(月)
 主催:全国歴史資料保存利用機関連絡協議会近畿部会
 共催:天理大学文学部歴史文化学科・奈良県図書館協会(地域資料研究会)
 第1部会場:天理大学附属天理図書館 2階講堂
 第2部会場:天理大学杣之内キャンパス2号棟考古学実習室

 報告者:澤井 廣次氏(天理大学附属天理図書館)
        報告者:佐藤 明俊氏(奈良県立図書情報館)

アーカイブズとしての天理大学附属天理図書館

服部 光真(近畿部会運営委員、公益財団法人元興寺文化財研究所研究員)

 天理図書館といえば、国宝に指定されている『日本書紀』や『播磨国風土記』などの歴史書をはじめとする古典籍の古写本や、俳人や文豪の自筆資料など、日本史、宗教学、日本文学に関わる貴重な資料が収蔵されていることはよく知られているが、一方で、近世文書や地誌、名所記などの大和国の地域資料も大量に集積されている。これは王寺町在住の歴史家・保井芳太郎氏収集の約5万点のコレクションを核として文書約30万点に及ぶものであり、県内でも最大級の地域資料の保存機関でもあるという天理図書館の一面は留意されるところである。
 本例会はこうした天理図書館のアーカイブズとしての側面に注目してその歴史と現状について口頭報告により紹介するとともに、書庫や地域資料が展観された開館89周年記念展「奈良町〜江戸時代の「観光都市」を巡る」を案内していただき、保存施設や展示・普及活動の実際を見学するものであった。
 当日は13時より天理図書館の講堂で沿革や施設、事業を紹介したビデオを観覧した後、同館の佐上圭太氏のご案内により書庫を見学した。書庫では、洋装本の書棚、次いで和漢籍の書棚をご案内いただいた。資料の慎重な扱いに適するように階段の高さなどにも工夫が凝らされていること、蔵書は大量に及ぶが和漢籍なども順次帙に入れて保管するように切り替えていることなど、参加者からの質問も交えながら、資料保存のために留意されている点などについて詳細に説明された。
 休憩の後、会場を天理大学杣之内キャンパス2号棟考古学実習室に移し、報告会を行った。第一報告の澤井廣次氏「天理大学附属図書館近世文書室の現状と課題」は、その沿革と整理方法の変遷、現在の整理の流れ、利用、保存、近世史料記述規則について詳細に現状が報告されたうえで、管理面の課題として未整理資料の減少に力を注ぐこと、人的側面や、書庫のスペースの問題など、利用面の課題として、目録のHP上での公開、閲覧点数、絵図のデジタル化などの検討事項を挙げられた。第二報告の佐藤明俊氏「アーカイブズとしての天理大学附属天理図書館〜館員平井良朋の初期論考の検討を中心に」は、天理図書館の成立と大学図書館でありながら公共図書館をも志向しているという特殊性から説き起こし、1952年から天理図書館の司書として近世文書の整理に従事していた平井良朋の初期論考に見られる近世文書取扱の先駆的な方法論や実践の試みと提起を紹介し、そのうえでこれを当初アーカイブズの機能を内包していた日本の図書館全体の動向の中に位置付けるものであった。
 報告の後、司会の服部より両報告を踏まえて天理大学附属天理図書館の特色と、図書館における近世文書編纂というより一般的な問題について論点を整理し、質疑応答が行われた。澤井報告に対しては、課題として提起された目録のHP上での公開のあり方や、目録や史料収集について、参加者の実践や経験をもとに意見交換が行われた。また天理教の教団資料や、天理大学の大学資料と天理図書館の業務との関わりについても質疑があり、共催者の天理大学文学部歴史文化学科教授の幡鎌一弘氏より、天理教教義及史料集成部や天理大学の年史編纂の紹介があった。佐藤報告に対しては、平井良朋の取組みへの再評価の必要性が共有されたうえで、同じく天理図書館の司書であった仙田正雄の平井良朋への影響や、奈良県域の地域資料をめぐる奈良県立図書情報館との関係などについて質疑があった。全体として途切れなく多数の質疑や意見が寄せられ、参加者からの天理図書館近世文書室の取組みへの関心や期待の高さが窺えた。
 以上の施設見学と報告会を通じて同館のアーカイブズとしての側面の歴史と現状について理解を深めることができ、充実した例会を終えることができたと思う。
 本例会の開催に際しては、天理大学附属天理図書館の澤井廣次様、天理大学文学部歴史文化学科教授の幡鎌一弘様には、会場確保をはじめとする種々の調整にお骨折りいただきました。末筆ながら御礼を申し上げます。


会場の様子

参加記

2019.10.21全史料協近畿部会参加記

個人会員:谷合 佳代子(エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館))

 天理大学附属天理図書館で行われた近畿部会に参加できたのは、その日が当館の休館日である月曜であり、かつ、非常勤講師として出講している大学も休日だったという僥倖が重なったからである。図書館の中のアーカイブズをどう組織化し活用しているのか、その実態や苦労話が聞けるということであれば、ここ数年来のわたしの関心事にまさに合致しているわけだ。時宜を得た企画に感謝するしかない。
 自宅から2時間かけてたどり着いた天理市の、昭和の薫り高い商店街を通り抜けて着いた天理大学は実に清潔で、建物がいかにも宗教大学らしいたたずまいを見せる個性的なキャンパスだった。
 見学会では開催中の89周年記念展「奈良町 江戸時代の「観光都市」を巡る」を見て、重要文化財だらけの所蔵品に感嘆。さりげなくすごいものをたくさんお持ちなので感心したが、特に心惹かれたのは松尾芭蕉の「野ざらし紀行」である。その繊細な手蹟にほれぼれした。
 そして、その後の天理図書館についてのレクチャーがまた大変興味深かった。天理図書館の沿革と現状について二人の講師が述べられた。発表された順とは逆になるが、沿革→現状の順に感想を述べる。
 天理図書館の歴史については佐藤明俊さん(奈良県立図書情報館)がアーカイブズ資料の組織化に重点を置いて話された。私設公共図書館として始まった天理図書館がやがて大学設置後には大学の付属図書館となるという沿革は初めて知ったので驚いた。「天理図書館は日本三大図書館と言われている」と天理大学卒のわが家人から聞いていたが(あとの2館はどこ?)、誠に貴重な資料を所蔵しているわけで、佐藤明俊さんの講演によってその中には保井文庫という古文書のコレクションがあることも知った。さらには古文書のコレクション整理に就いた司書である平井良朋が古文書の組織化と格闘してきたという経緯も知った。
 天理図書館はもともとの保井文庫に加えてその後もどんどん古書店から古文書を購入してアーカイブズを増やしていく。本来、郷土資料館や県立図書館が担うべき仕事を天理図書館が担っていたということを知ってまたまた驚いた。
 平井司書が図書館の分類・目録法を文書(アーカイブズ)の整理にも適用するあたり、当館の歩みと似ているのでとても親近感を覚える。
 澤井廣次さんによる講演は天理図書館の現状と課題について。L(図書館)とA(アーカイブズ)の資料目録の融合を目指してきた歴史を振り返りつつ、結果的にそれをいったん棚上げした現状について触れられた。AについてはLのOPACと違うシステムで動かしていて、将来的にも合体予定がないということだったので、「なるほどなぁ」とこれまた非常に興味深かった。まさに当館の資料整理の試行錯誤と同じような歩みを歩まれていることを知って、ますます親近感がわく。
 現在ではISAD(G)を使って目録を作成しているというところも当館と同じ、というか、当館のほうはまさに始めたばかりなのだが、そのあたりの苦労がしのばれて、いっそう親近感が強くなる。ほとんど親戚ではないかと思うぐらいだ。
 特に、フォンドはExcelファイルで、アイテムはAccessで目録を採るという方法には目から鱗が落ちた。WEB上で双方にリンクを張っているという。
 これは、未整理資料を減らして、おおざっぱな目録でもいいからとにかく一刻も早く資料を外部に見える形にせよとの上長からの指示によるようだ。当館も今この必要に迫られている。
 報告の添付資料として、和漢古書と近世史料の記述項目対照表が配布された。なるほど、これがLとAとのクロスウォークなのだな、と納得。ものすごく参考になった。
 今回の見学会では当館と共通する悩みや苦労を持つ天理図書館(とはいえ、蔵書数や予算規模などかなりの差がある)の事例を知り、大変勉強になった。全史料協の例会であるゆえ、アーカイブズの話も参加者がすんなり聞くことができるのはよかった。これが同じテーマで図書館司書向けなら、「そもそもアーカイブズとは何か」「ISADとは何か」ということから話を始めないといけないから、深く突っ込んだところまでたどり着けない。とはいえ、図書館員こそがこういうことを勉強すべきと改めて強く感じた次第である。


澤井 廣次氏


佐藤 明俊氏

天理図書館での例会に参加して

岡島 永昌(王寺町地域交流課文化資源活用係)

 全史料協近畿部会第153回例会が、天理大学附属天理図書館を主な会場として行われるとの情報に接し、非会員の身でありながら、初めて参加させていただきました。
 参加することにしたのは、学部時代によく出入りしてお世話になっていた図書館が、20年あまりが経過して全国的に著しくオープン化が進んだなかで、どのように変化したのか。あるいは変化していなくてもこれからどのように変わろうとしているのかを知りたいと思ったからです。
 当日の例会は、天理図書館の見学と2本の報告という構成で行われました。ここでは、それぞれの雑多な感想を記すことで参加記に代えたいと思います。
 まず、天理図書館の見学で感じたのは、変えないことと変えることのバランスの難しさです。天理図書館は昭和5年(1930)の建築で、外観はもちろん講堂の舞台やホールのシャンデリア、ドアなどの内装、机や椅子といった備品に至るまで開館当初のものが保存され、今なお現役で使用されています。このまま変わることなく永く保存していかなければならないものといえます。
 一方で、変えていかなければならないのは、やはり利用者にとって利用しやすい形態でしょう。こちらは20年経っても大きくは変わることがなく、利用者が紙に請求したい図書の情報を記入し、職員に手渡して出納するというものでした。特別に見学させていただいた書庫では、天理図書館の蔵書の素晴らしさを目のあたりにし、誰にでもいつでも書庫を開放するわけにいかないことは理解できましたが、書庫が開放できないのであれば、図書のデジタル化による公開などを検討してほしいところです。しかし、私が図書館を利用していた頃は閲覧室だった場所が、新たに開架図書のスペースに変わっていたところがありましたので、図書館の側でも変わってしまってはいけない部分をしっかりと守りつつも、可能な限り利用しやすい形態を整えようとされている意図を感じることができました。
 こうした意図は、次の2本の報告でも感じることができました。2本の報告では、天理図書館に所蔵される近世文書を中心に議論され、澤井氏の報告をつうじては、奈良県では公的機関による近世文書の収集・保存が不十分ななか、天理図書館ではかつては古書市場に出た県内の文書はすべて買い取るという強い意気込みがあったとの話を聞き、同館が果たした役割の大きさを改めて実感しました。しかし、そうして収集されても整理が進まず、なかなか公開されないというのも事実です。これに対しても、作成する目録をひとまずは概要目録のみにして整理・公開までのスピードを早めようとされていることを知りましたし、これまでは冊子目録でしか検索できなかった近世文書が、館内の端末のみという条件はあるもののデジタル検索できるようになっていました。
 佐藤氏の報告では、平井良朋氏による近世文書の整理法について、原秩序維持が主流になっている現在からすれば枕詞的に批判されるような方法であるが、当時の背景を踏まえて理解すべきであると指摘されました。まったく同感で、私は学部時代に平井先生の授業を受けたり、その後も文書整理法についてお話をうかがったりしたことがあります。そこで感じたのは、まだデジタル検索ができず、カード目録でしか検索できない時代において、先生はいかに利用者の求める史料にたどり着かせるかを意識され、そのためにはどのような分類項目を立てる必要があるのかということに腐心されていたように思います。
 昔も今も資料をいかに利用してもらうかという図書館の営為は変わっていません。例会に参加して、今後の天理図書館に期待できると感じました。天理図書館には、個人研究で使いたい近世文書群も多く所蔵されています。バランスの取り方に苦慮されるとは思いますが、変わってはいけない部分を守りつつも、所蔵される貴重な資料が書庫に眠ったままにならないように工夫を重ねていただきたいと思います。


質疑応答の様子