近畿部会トップページ

全史料協近畿部会会報デジタル版ロゴ

The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.71
2020.1.20 ONLINE ISSN 2433-3204

第154回例会報告

 

2019年(令和元)12月9日(月)
 会場:尼崎市総合文化センター7階第1会議室

第45回全史料協全国(安曇野)大会・公文書館機能普及セミナーの報告会 と
ワークショップ

金原 祐樹(近畿部会運営委員、徳島県立文書館)

 公文書の管理を巡る状況は、時代の要請もあり刻々と変わってきている。我々自治体の歴史資料を扱う機関は、さまざまな期待と要請が高まってきている時と考え行動をすべきではないか。行動に移すためには、行動の元となる正確な情報と横の連携が必要になる。 今例会では、11月に行われた第45回全史料協全国(安曇野)大会の概要を、大会開催の地元安曇野市の職員であり、全史料協大会研修委員会委員として大会開催のホスト役を果たされた安曇野市文書館の青木弥保氏に、また、山形県山形市で行われた全史料協公文書機能普及セミナーの概要を、大会を運営した全史料協調査・研究委員会委員長の徳野隆氏に報告していただいた後に、お二人を囲んで討議を行った。さらに、後半では「共有しませんか?実務の悩み」と題したワークショップを行った。参加者が、3人の話題提供者に出していただいたテーマごとに3つのグループに分かれ、個々に事例や問題点を出した上である程度のまとめたものを最後に報告し合う形がとられた。ここでは、それぞれの概要を報告する。
青木弥保「第45回全史料協全国(安曇野)大会を振り返って」

青木弥保氏の報告

 報告は全史料協大会の招致の経緯からはじまり、長野県の現状における課題を踏まえた大会テーマ作りと研修会・研究会の組み方、さらに特別な枠としての公開講演会の設定、最後に大会実施による効果や反省をまとめて報告いただいた。長野県が地域資料の宝庫であり、多くの地域史研究団体があり活発な活動をしていたことはよく知られている。しかし、研究会員の高齢化が進むことにより、地域資料の市場流失や研究団体の存続ができなくなりつつある現状がある。そのことを前提に地域資料を守る文書館が市町に相次いで開館している状況がある。しかし、公文書に関心が向いておらず、法整備が不十分な自治体も多い。その一方でさらに文書館整備に動こうとしている自治体も7・8あるため、どのような文書館を作るのかが大きな課題となっている。このことから、「「文書館」をつくる−市町村が拓くアーカイブ活動−」をテーマとした大会となり、それに沿った内容の研修会・研究会を組んだことが述べられた。特に、国立公文書館の加藤丈夫館長を招き、一般の方を含めた公開にすることで多くの参加者を得、公文書保存を広く考える機会にすることができた。さらに、安曇野市に対してさまざまな経済効果や、宣伝効果があり、大会としての成功を実感したが、最後の大会テーマ討論でも長野県内の取り組みに賞賛の声が上がっていたことに対し、却って出来すぎではないかという疑問を呈されて報告を終えられた。
 この報告に対し、同じく全史料協大会研修委員会委委員で、尼崎市立地域研究史料館の松岡弘之氏から補足説明として、大会の概要についての補足と共に、長野県内における市町村の状況は全国的に見て賞賛に値する例であり、大会テーマに合致した大会であったことを述べられた。
徳野隆「2019年度公文書館機能普及セミナーin山形について」

徳野隆氏の報告

 全史料協調査・研究委員会が企画・開催をしている公文書館機能普及セミナーは、都道府県ごとに開催地を決めながら開催しており、今年で10年、10回目を迎えた。本年は、今年3月公文書管理条例を制定・公布し、来年2月に新公文書センター開館を控えている,山形県からの開催打診があり、4月から準備を進め11月26日(火)に開催した。日程・会場・報告者や内容は、調査・研究委員会と山形県で連絡を取りながら決められ、会場は、旧山形県庁・県議会議事堂であり、昭和59年に国指定重要文化財となった山形県郷土館「文翔館」という山形の歴史公文書を考えるのにふさわしい場所での開催となった。
 当日の報告・講演は、1本目として山形県庁学事文書課の築達秀尚氏による「山形県における適正な公文書管理への取組−公文書管理条例制定にかかる経緯−」、2本目として元広島県立文書館副館長安藤福平氏による「適切な文書分類により公文書をコントロールする」、3本目として東洋大学教授早川和宏氏による「山形県を−公文書センターが果たす法的役割−」の3本であり、その後質疑応答がまとめて行われた。
 山形県の実情・実態を例にした築達氏の報告後、公文書を適切にコントロールするための文書分類を用いるという具体的な公文書管理に関する安藤氏の講演、さらに公文書館の必要性や制度のあり方を法的な観点から平易に解説していただくという内容の早川氏の講演により、全体に自治体での公文書管理と公文書館の必要性について広く知っていただけたとまとめられた。
 セミナーは、全史料協の会員に加えて、山形県内の自治体職員や研究者など多くの方が参加していただいたが、少し盛り込みすぎたのか、もう少し余裕を持った時間配分にできたらという反省もあった。
 このあとの全体討議の中で、滋賀県県政史料室の大月英雄氏から滋賀県における「会計年度任用職員」に関する話題提供があった。「会計年度任用職員」は、これまで自治体で置かれていた臨時職員及び非常勤職員に代わるものであり、全ての自治体に関わりがあるところである。推移を見守りつつも、これまでの制度より改悪されることが無いようにしていく必要があるだろう。


質疑応答の様子

ワークショップ 共有しませんか?実務の悩み
 例会の後半は、3人の話題提供者を中心としたワークショップが行われた。
 1人目は、歴史資料ネットワーク・兵庫県立歴史博物館の吉原大志氏による「これからの博物館・文書館、どんな施設をつくりたい?」である。博物館・文書館施設は、一時期に集中して開設した期間が多く、現在設備の改修や建て替え、既存施設の転用などの事例が増加している。そのことを前提に、働く側・利用者の両方にとってより良い施設を作るためにはというものであった。
 2人目は、福井県文書館の柳沢芙美子氏による「福井県文書規程等の改正について」である。福井県では、平成31年4月1日に「福井県文書規程」が改正され、文書館への完結文書等の移管方法が見直された。原課で廃棄決定後に文書館が歴史公文書を選別し引き渡されるという流れであったものを、廃棄決定が行われる前に文書館が引き渡される公文書を選別を行う流れとした。また、行政資料(行政刊行物)の多くが、ホームページによる公表に移行していることから、電磁的記録の行政資料収集および管理について「福井県行政資料管理規程」を改正した。これらを元に、文書館・公文書館が川上の文書管理を行う関連組織への働きかけについてという話題であった。
 3人目は、滋賀県県政史料室大月秀雄氏による「滋賀県歴史的文書における閲覧制限情報の審査について」である。歴史的文書には、さまざまな個人情報や企業情報などが掲載されている。これらの文書を公開するためには、どこかの段階で何らか制限をかける必要がある。利用者からの批判・指摘を受けながらも、そうした審査を、だれが、いつ、何を根拠に行うのかという実務上の問題について,滋賀県の実態を事例に考えようとするものであった。
 3本とも魅力的な話題であったが、筆者は「これからの博物館・文書館、どんな施設をつくりたい?」に参加した。参加した方々は、施設の老朽化や移転・リニューアルなどの課題を持つ方が多く、いくつもの課題や解決につながる話を聞くことができた。


これからの博物館・文書館に関するワークショップの様子

 ここまで書いてきたが、まとめきれず冗長な文章になってしまった。しかし、それだけ内容の濃い半日であった。特にワークショップのテーマはそれぞれ魅力的で、できればそれぞれ再び例会で取り上げ直していただくことができればとの声も聞こえた。ワークショップを含め今例会全体の構成は、近畿部会の事務局である尼崎市立地域研究史料館の河野未央氏に行っていただいた。お礼申し上げたい。

参加記

近畿部会例会参加記

神崎 智史(西宮市情報公開課)

 このたび全史料協第154回例会での、第45回全史料協全国大会と公文書館機能普及セミナーの報告会、及びワークショップに参加させていただきました。
 安曇野市の青木さんによる全国大会開催についてのお話は、同じ地方自治体職員として大変興味深く、基礎自治体が全国規模の大会を開催する意義やメリット、会場の設定や宿泊施設の手配などの運営の難しさを考えさせられました。
 本市にはまだ公文書館はありませんが、令和3年度に竣工する第2庁舎建設に伴う市庁舎再編により、公文書館的機能を備えるコーナーを設置する予定で、ミニマムモデルの作成は大変参考になりました。ただ、現状ではほとんどの項目で「〇」を付けられる状態に無く、職員配置などを含め今後、苦慮させられることになると思い戦々恐々としております。
 私は今の業務に就いてまだ3年目で、近畿部会例会の参加回数もそれほど多くないのですが、今回のようなワークショップを開催したのは初めてだったということで個人的には大変有難く思いました。テーマが「公文書の収集、管理」「これからの博物館・文書館」「歴史的文書における閲覧制限の審査」の3つでしたが、どれも興味深く、今回は「公文書の収集、管理」に参加しましたが、次は違うテーマにも参加してみたいところです。近隣で公文書の収集や歴史資料の保存活用に取り組んでいる自治体も少ないと思われる中で、お隣の尼崎市さんや、教育委員会所管として取り組んでいる枚方市さんのお話は貴重で大変参考になりました。常々思っていたことですが、歴史的公文書の管理には文書管理担当課(レコードマネージャー)と歴史資料担当課(アーキビスト)の確立および連携、自治体全体での意思疎通・意思統一が不可欠だと改めて感じました。ここで得た情報や、「つながり」を今後の業務に活かしていきたいと思っている次第です。


公文書の収集・管理に関するワークショップの様子

参加記

谷岡 能史(豊岡市教育委員会教育総務課文化財室)

 全史料協の行事に参加するのはほぼ5年ぶりで、今の職場に移ってから初めてでした。参加することにした理由は、案内を見たとき、@登壇される安曇野市が「平成の合併」を経験した地方都市であるという点で職場に近いことと、Aワークショップが用意されていて集中力がない自分でも最後までもちこたえられると思ったからです。

1 「第45回全史料協全国(安曇野)大会を振り返って」(青木弥保氏 報告)について
 全史料協の大会へは何度か行ったことがありますが、閉会のたびに「大会を引き受けてほしい」という登壇者の声を聞いた記憶があります。大会運営にかかわった経験がなく、舞台裏がどうなっているのかはあまりよく分からないものの、小さな地方都市で大会を無事終えられた安曇野市のみなさまには「お疲れさまでした」と言いたいです。
 安曇野市の「(公文書+)地域資料」「ボランティア」「生涯学習」「学校資料の移管」等というキーワードには頭が下がります。何よりも「議員が文書館を利用→館で得られた市役所に対して不利な各種資料を議会で取り上げる」というのは、もう一人の登壇者である徳野さんがコメントしたように「健全な民主主義の証」であると同時に、文書館の存在意義としてなくてはならない部分だと感心しました。

2 「2019年度公文書館機能普及セミナー in 山形」(徳野隆氏 報告)について
 山形県では2020年2月に新公文書センターが開館する予定とのことでした。報告を拝聴した限り、職員の配置・収蔵スペース・他部署との調整等について、現実は厳しいと再認識しました(山形県に限らず)。
 これには、全史料協サイドの問題もあり、何のためのセミナーだったのか、すでにセミナーを終えた県も含めて継続的に事後検証をしていかなければならないという考えを持ちました。

3 ワークショップについて
 ワークショップに入る前に、滋賀県の大月さんから会計年度職員制度の導入についての話題提供があり、公文書館の専門職員や、図書館・博物館において司書や学芸員の資格をもたない(が現在の職場で重要な役割を任されている)非正規職員の立場について、あらためて厳しい認識を持ちました。
 その後は、3つの異なるテーマのグループに分かれたワークショップを行いました。どのグループに入るか迷いましたが、個人情報と閲覧制限にかかるグループに参加しました。
 ワークショップでは各館の実情を伺い知ることができ、今後、職場に持ち帰って活かしていきたいと思ったのはいうまでもなくですが、とりわけ、「『出さない』という決定を下すことには(情報公開不行き届きという)リスクもある」という意見に感心しました。
 具体的にはタテ割りですが、@公文書管理法をベースにした歴史資料(館)と、A文化財保護法をベースにした歴史資料(館)とでは、少し違うなという印象を受けました。法律をそのまま読むと、@の立場では公文書管理法のもと「国民に説明する責務が全うされるようにすること」を目指すのに対し、Aの立場では「文化的向上〜世界文化の進歩に貢献すること」を目指します。これが@の立場(公文書館)において「出さないこと」がリスクと強く認識される要因とも感じました。当然ながら、Aに関連して行政主体の文化財保護にも税金がかかっているわけで、この点は、きちんと納税者の方に還元していく必要があると認識を新たにしました。

 以上、「思いました」「感じました」が多い小学生の感想文のような参加記ですが、有意義な時間を過ごすことができました。準備にあたられたみなさまにおかれましてはお疲れさまでした。


近現代文書の個人情報等の取り扱いに関するワークショップの様子