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The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.77
2022.6.25 ONLINE ISSN 2433-3204

全史料協近畿部会第159回例会報告

 

2022年(令和4)4月28日(木)
 会場:尼崎市立歴史博物館

テーマ:ようこそあまがさきアーカイブズへ
    ―新館の見学・公文書管理条例施行・AtoMの試行―の開催


辻川 敦(尼崎市立歴史博物館史料担当
             (地域研究史料室"あまがさきアーカイブズ"))


 2021年9月の第158回例会以来7か月ぶりの例会開催。そして、オンラインではないリアル例会としては2019年12月の第154回以来、2年4か月ぶりとなる今回のテーマは「ようこそあまがさきアーカイブズへ―新館の見学・公文書管理条例施行・AtoMの試行―」。尼崎市立歴史博物館を会場として開催しました。参加者は33人でした。
 実施したプログラムは次のとおりです。
1 あまがさきアーカイブズ施設見学
地域研究史料館室"あまがさきアーカイブズ"が管理する閲覧室やバックヤードの収蔵庫・書庫を、参加者のみなさんに視察見学していただきました。
2 報告「あまがさきアーカイブズの紹介」「尼崎市公文書管理条例について」
  報告者:河野未央(こうのみお)、(尼崎市立歴史博物館史料担当)
  司会:橋本陽(はしもとよう)、(京都大学大学文書館)
 尼崎市立歴史博物館は、市立地域研究史料館と市立文化財収蔵庫を統合し、1938年(昭和13)築の旧市立尼崎高等女学校校舎にリニューアル工事を施して、2020年10月10日に開館しました。尼崎市の公文書館施設である地域研究史料館の事業と機能、そしてスタッフを歴史博物館内の地域研究史料室"あまがさきアーカイブズ"に継承し、引き続き市の公文書館機能を担っています。
 加えて、尼崎市は、2022年3月に「尼崎市公文書の管理等に関する条例」を制定し、翌4月から特定歴史的公文書利用請求制度を開始しました。公文書館事業の本格実施にあたり、これを担う組織体制の強化も行っています。従来、地域研究史料館を受け継ぐ歴史博物館の史料担当係があまがさきアーカイブズの事業全般を所管してきたのに対して、特定歴史的公文書に関する業務を企画担当係に移し、担当する行政事務員が史料担当係から異動、さらに企画担当係の人員も拡充配置しています。
 以上のような、歴史博物館発足、地域研究史料館統合及び公文書管理条例施行に至る経緯等を報告し、あわせて地域研究史料館以来の市民利用・レファレンスの重視、社会に内在化し広く市民社会の理解と協力を得て支えられる市民文書館を目指すあまがさきアーカイブズの事業について説明と質疑応答を行いました。


第159回例会会場(尼崎市立歴史博物館)

3 報告「AtoMの試行について」
  報告者:辻川敦(つじかわあつし)、(尼崎市立歴史博物館史料担当)
  司会兼コメント:橋本陽(京都大学大学文書館)
 令和3年度、近畿部会として取り組んだ4回シリーズの目録規則・デジタルアーカイブ等基礎研修(エル・ライブラリーに実施を委嘱)の実施意図と開催概要、ならびにICAの基準に基づくオープンソースのデジタル・アーカイブシステム"AtoM"の試行(NPO法人「記録と表現とメディアのための組織」(remo)に委嘱)について説明しました。
 予定では、AtoM試行版サイトを会場で投影して構造や動作を参加者のみなさんに見ていただく予定でしたが、システムトラブルにより断念。急きょ、司会の橋本陽さんにAtoMの基本をご説明いただき、さらに会場におられた堀内暢(のぶ)行(ゆき)さん(国立国文学研究資料館研究員、KindleBook『無料でデキる!デジタルアーカイブの導入: OSS・AtoM(Access to Memory)』執筆者)、元ナミさん(東京大学文書館)、加藤聖文さん(国立国文学研究資料館)に、それぞれAtoM及びデジタルアーカイブをめぐる動向についてコメントをいただきました。
 アクシデントがあったものの、はからずも例会に参加された事情通の方々から最新の情報をご提供いただくことができました。この例会で得られた知見をもとに、令和4年度も引き続き近畿部会としてAtoMに取り組んでいくことができればと考えています。


報告者辻川氏(尼崎市立歴史博物館)と司会橋本氏(京都大学大学文書館)


例会参加記(1)

佐々木 和子(個人会員)


 4月28日(土)、尼崎市立歴史博物館で開かれた近畿部会第159回例会に参加した。同館は、地域文書館であった「地域研究史料館」(以下アーカイブズ)と博物館機能を持っていた「文化財収蔵庫」(以下収蔵庫)の機能を移転・統合し、2020年10月に開館したものである。コロナ禍の時期の開館のため、近くにいながら訪れる機会を逸していたところに例会のしらせ、この機に是非との思いであった。対面の例会、それだけでも心躍った。
 本例会のテーマは、「ようこそ あまがさきアーカイブズへ―新館の見学・公文書管理条例施行・AtoM の試行―」。どれをとってもそれぞれ1回の例会が可能と思われる、盛りだくさんの内容であった。
1. 新館見学
 筆者は、市立公文書館として優れた取り組みをおこなってきた館が、「あまがさきアーカイブズ」にどのように引き継がれるのかに関心をもっていた。その点について、「各々の機能を引き継ぎながら、できるところで連携していく」との説明。「市民文書館として、社会に内在化し、広く資料の利用を通じて市民社会の協力者」に、「レファレンスに注力し、多様なニーズに答え、その結果をデータベースに残す」取り組みが続けられるとのこと。さらに統合後、収蔵庫(博物館)関係者がすぐ近くにいることで、より古代・中世へのレファレンスも充実したという。レファレンス機能への意欲の維持と向上。アーカイブズの良さは変わらずと安堵した。
2. 公文書管理条例施行
 本年4月1日施行された「尼崎市公文書の管理等に関する条例」が施行された。2020年から翌21年の間の短期間に、トップダウンで制定された条例とのこと。「管理等」にしたのは、利用請求サービスを視野に入れたもので、県内市町としてではじめて「特定歴史的公文書の利用請求サービス」を実施するとのことであった。評価・選別は、所管課(文書作成課)が一次選別を行い、歴史博物館が二次選別を行って確定する。21年度にその作業を試行し、包括的な「歴史的公文書選別基準」を作成したという。
 「小さく生んで大きく育てる」。今後実施の中で、課題等を克服していくことが説明された。
3、AtoM (Access to Memory)の試行
 休憩後は、「AtoMの試行」。実際に入力された目録を見ながらの計画であったが、準備の過程でそのデータ移行がうまくいかず、その試行はできなかった。急遽参加者による「AtoM」概要の講義が開始された。さらにこの試行のために、関東圏から参加された方々が、ご自身の経験を披露し、忌憚のない意見交換、情報共有の場となった。
 昨年AtoM研修会が4回にわたって開かれた。関心はあったがうまくタイミングがあわず、参加できなかった。事務局は冷や汗をかかれただろうが、デジタル時代の目録の基礎概念を学ぶ良い機会となった。ぜひ、実際のAtoMの施行に出会いたいと思った。
 久しぶりの例会参加。「攻めている近畿部会」との印象が残った。続く例会企画に期待したい。

例会参加記(2)

あまがさきアーカイブズの「古き良き」目録公開体制についての感想

元 ナミ(東京大学文書館)


 「コロナ禍」で海外へはもちろん、県外への移動や大人数での集まりが制限されてきた中、近畿部会の例会でアーカイブズ機関(以下、文書館という)の現場見学が可能になったのはほぼ2年ぶりである。研究上の関心から、オープンソース目録検索システムのAtoM(アトム)を利用して史資料目録の公開を試みているあまがさきアーカイブズを伺う機会をねらっていたが、今回の例会により初めて訪問することができた。
 あまがさきアーカイブズは、1975年に開館した前身の「尼崎市立地域研究史料館」時代(より遡ると、「市史編纂室」だろうか)から各種史資料の目録情報を広く公開してきた。主に近現代以前に作成された収集・寄贈資料等が関連地域別に分類され、資料群の概要と件名目録はPDFファイル等でウェブ上に公開されている。それに加え、尼崎地域関連の図書、雑誌、電子資料、論文・抜刷、地図、音響・映像資料、ならびに尼崎関係論文索引なども独自の「検索システム」で検索でき、出版物として刊行された地域情報や写真、絵葉書などは個別の「デジタルアーカイブ」ページで検索、閲覧することができる。
 また、「尼崎市公文書の管理等に関する条例(令和4年条例第3号)」の施行により、2022年度から特定歴史的公文書の利用請求が可能となり、市のホームページに目録が公開されている。加えて、あまがさきアーカイブズに長年蓄積されてきたレファレンスの記録が外部サイト「レファレンス協同データベース(レファ協)」に登録され、尼崎地域に関わる歴史的事実や資料の探し方までが広く一般に共有されている。
 しかし、これらの目録や資料情報を検索するには、若干手間がかかる。資料の分類や形態によって検索方法が異なっているほか、個別のウェブページの階層構造が多少複雑に設定されている。そのため、欲しい目録情報や検索手段にたどり着くまで、ページ間の移動やクリック操作も多いように思う。さらに、独自の分類コード体系や地域分類を理解するためには、それこそレファレンスが必要であろうと思ったのが、正直な感想である。
 あまがさきアーカイブズの目録には、資料の形態、主題、地域、時代などによって様々な分類や区分が設定されている。そのため、アーカイブズ資料記述の国際標準をベースにしているAtoMに、従来の目録情報を全て活かすことは、ほぼできない。日本の文書館設立の草創期から蓄積されてきた様々な目録の項目はAtoMに設定されていないものが多く、それを追加できないことが問題となりうるのは事実である。新しい検索システムのAtoMに移行するには、こだわりの分類や記述標準以外の独自の記述項目を一定程度整理せざるを得ない苦悩もあるかと考えられる。しかし、アーカイブズ資料の標準データを利用することによって他の機関間でメタデータの収集と共有がより円滑になる点、将来の検索システム改修や移行時に標準準拠データを修正なし(最低限か)で最大活用できるといった利点などを考えると、目録の再構築は避けられない課題かもしれない。AtoMがOSSである以上、日本語化対応とエラーや更新時の対応負担が増えることも否定できないが、一定程度安定したバ−ジョンを利用することで、今より検索性と利便性は向上されると考える。
 残念ながら今回の例会では予期しないサーバーエラーで、これまでの試行作業を見ることはできなかった。あまがさきアーカイブズが近畿部会を中心に、個々の文書館が同じ苦労を繰り返さないよう、自らの経験と知恵を共有しつつ新しい検索システムに移行するコツを見出すこと、その試みについて今後も大いに期待する。