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全史料協近畿部会会報デジタル版ロゴ

The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.81
2023.7.5 ONLINE ISSN 2433-3204

全史料協近畿部会第162回例会報告

 

2022年(令和4)12月2日(金)
 会場:徳島県立文書館

テーマ:「ヨーロッパの公文書館事情 -フランス・ドイツの事例に学ぶ」の開催


金原 祐樹(徳島県立文書館館・全史料協近畿部会事務局)


 全史料協近畿部会第162回例会は、令和4年12月2日(金)令和3・4年と全史料協近畿部会事務局を担当した徳島県立文書館で行われた。徳島県立文書館が近畿圏からは離れた場所にあり、続くコロナ禍の中で少しでも参加者を募るため、会場での対面とZoomを使用したハイブリッドによる開催とした。
 ハイブリッドによる例会の開催は、事務局としても初めての経験であり、管理を会場のパソコン1台のみで行ったため、Zoomでの参加者の出入りなどで若干問題を生じることもあったが、おおむね大禍なく例会を進めることができた。
 例会の内容は、公文書館(アーカイブズ)制度を生んだ場所であり、長い歴史を持つヨーロッパ、特にフランスおよびドイツの公文書館について、研究者として利用を続けてこられたお二人に、利用者の視点で公文書館が具体的にどのようなところで、何をしている場所なのかということを中心にご講演いただいた。
 講演1 田中佳徳島大学准教授「フランスにおける18世紀史料の調査 −国立公文書
 館、地方文書館、ルーヴル美術館史料室での経験から−」
 講演2 原田昌博鳴門教育大学教授「ドイツの公文書館事情−ベルリンを事例に」
 お二人のご講演では、多くの公文書館や史料保存機関のご紹介していただき、それらの機関がその国の文化となっている様子をうかがうことができた。
 徳島での直接参加者10名、リモートでの参加者32名、計42名の参加者を得た。


第162回例会会場(徳島県立文書館)


例会参加記

嵐大二郎(徳島県立文書館)

「快適な」アーカイブズとは

  去る令和4年12月2日(金)に近畿部会第162 回例会が開催された。「開催された」と書いたが、実は当館の主催である。当日は司会進行を担当した。参加記の前に、“開催記”として少し述べる。
 今回は近畿部会の例会であると同時に、当館が主に県内の行政職員向けに毎年企画している「公文書管理保存講座」も兼ねていた。そのため、県内の参加者には当館講座室で直接講演を聞いていただき、県外の会員の方々にはzoomによるリモートで参加いただく、ハイブリッド形式での開催となった。当館としては初めての試みであったため不安も大きかったが、何とか乗り切ることができた。今回の経験で、当館主催行事の実施方法に幅ができたのは大きな自信になった。ただ、コロナ禍においてリモートの利便性の高さを体感した上でも、当館の様子や徳島県の風土を、県外の方々に直接に感じていただく機会が減ってしまうことは相変わらず残念である。そのような中で、今回、県外からお二人の方に直接御参加いただき、例会翌日には館内を御案内できたことは大変喜ばしいことだった。

報告者田中氏

 今回は海外の公文書館事情について、田中佳徳島大学准教授より「フランスにおける18世紀史料の調査 −国立公文書館、地方文書館、ルーヴル美術館史料室での経験から−」との演題で、次に、原田昌博鳴門教育大学教授より「ドイツの公文書館事情−ベルリンを事例に」との演題で御講演いただいた。アーカイブズ創設の歴史や、実際の利用方法などに国ごとの違いも感じられ、印象深い内容が多かったが、お二人の講演内容に共通していたもののひとつに、「建築としてのアーカイブズ」があった。
 フランスには「芸術のための1%法案」があり、公共建築物の総工費の1%を存命の作家・画家の作品にあてることが義務づけられている。2013年に開館したフランス3番目の国立公文書館は、著名な建築家マッシミリアーノ・フクサスが手がけており、機能的であると同時にアーティスティックな造りであるという。私は令和4年秋に、国立公文書館主催のアーカイブズ研修Vに参加し、神奈川県立公文書館を視察させていただいた。その際、神奈川県もかつて「文化のための1%システム」という同様の取り組みを行い、その頃に公文書館が建てられたことを職員の方からうかがった。調べると、神奈川県立公文書館は、神奈川県等が主催する「神奈川建築コンクール」で奨励賞を受けている。公立の美術館や博物館、最近では図書館においても、名のある建築家が手がけ、カフェ等が併設されるといった例が見られる。文化発信だけでなく、建物そのものが市民の憩いの場となるよう考えられている。
 原田先生は、ドイツのアーカイブズは来館者が長居できる造りや環境であることを紹介された。閲覧室は明るく開放的で、作業台も広い。休憩スペースには自動販売機があり、コーヒーだけでなく、簡単なスナック類も販売している。資料に長時間目を通した後、ゆっくりとコーヒーブレイクを楽しむ時間を、原田先生は「至福」と表現されていた。これらの「快適さ」は、ベルリンの3つのアーカイブズすべてに共通しているという。

報告者原田氏

 これはあくまで印象ではあるが、日本国内の公立アーカイブズの多くは、保存・管理や閲覧などアーカイブズの機能を担保することに重きを置き、人々が憩うという点はそもそもの建築目的としては薄かったのではないだろうか。また、生の資料を閲覧するアーカイブズにおいて、明るさや飲食スペースの充実が資料に与える影響も十分に検討されたはずだ。それらを理解した上でも、両先生が紹介されたアーカイブズの姿に一種の羨ましさを感じてしまった。それは何より、公共施設に勤める者として、多くの市民に館を「愛してほしい」と願うからだ。当館の休憩スペースは、椅子がいくつかと冷水機が1台あるのみで、自動販売機はない。お茶や炭酸飲料、温かい飲み物等を館内で得ることはできない。だからといって、当館に自動販売機が据えられるのを望むわけでもない。閲覧室への持込みだけでなく、旧県庁の建物を再利用している当館では景観の問題もあるからだ。カフェのように変化するのはさらに現実的ではない。しかし、利用者に「至福」と思ってもらえるための努力は欠かすことができない。「重要裁判の記録の廃棄」などといったネガティブな話題の度に文書保存やアーカイブズに注目が集まるが、「革新的な建築の公立アーカイブズ誕生」といった明るい話題からアーカイブズを意識する機会に触れてみたいものだ。
 原田先生が講演の中で紹介された「文書館教育」という言葉に私は惹かれた。要はアーカイブズと教育現場との連携である。「文書館教育」という言葉は、シンプルでありながら「アーカイブズの理解と活用」についてのメッセージを強く備えていると感じた。当館は「教育普及事業」という名称で教育現場との連携を継続して行っている。内容において共通する事業もあるが、ベルリン州立文書館はアーカイブズ活用のメリットを強く謳い、資料を通して「歴史に触れる」、「歴史の生成過程を知る」という理念と実践の面を強く押し出している。熱意の差と自身の力不足を感じた。学校現場から赴任した当初からの私の悲願のひとつが文書館と教育現場との連携強化であった。現状を打破したいとの焦りはあったが、「文書館教育」という言葉の強さと、ベルリン州立文書館の熱意に少し背中を押された感がした。手段も重要だが、基本に立ち帰り、文書館の存在意義を確実に、それでいて平易な表現で伝える努力を、熱意をもって行おうと決意した。これらは「快適さ」や「愛されること」そして「至福」にも繋がり得るはずだ。




全史料協近畿部会第163回例会報告

 

2023年(令和5)2月17日(金)
 会場:キャンパスプラザ京都 2階第2会議室

テーマ:「アーカイブズ学における基礎概念の再検討」の開催


金原 祐樹(徳島県立文書館館・全史料協近畿部会事務局)


 全史料協近畿部会第163回例会は、令和5年2月17日(金)、京都駅北口のすぐ側にある、キャンパスプラザ京都2階第2会議室を借りて対面で開催した。交通の便がこれ以上は無いというほど便利な場所であり、例会の内容が、時宜を得たものであったためか、30名としていた募集定員は早々に埋まり、多くの方にご迷惑をかけた。今後は例会の開催にあたり、会場定員等を十分に検討することとしたい。
 今例会は、欧米から受容したアーカイブズ学は、日本の中で研究・実践が積み重ねられ着実に進歩を見せてきたが、その概念の解釈において日本独自の解釈が際立つものが確認されるようになった。今回の各報告で上げる各概念は日本国内でのアーカイブズ学で基礎的な概念として定着しているものであるが、国際的な観点からは独自の解釈がなされてきた要素が認められる。そこでこうした基礎的概念についてあらためて現時点での国際的・標準的な理解との差異を示すと共にそれらが産み出されてきた背景や受容、発展の過程について報告し、参加者との一定の共通理解に達することを目指して行われた。

 各報告のテーマは下記のとおりである。
 報告1 橋本陽(京都大学大学文書館)「フォンドの尊重」
 報告2 小川梓(埼玉県立文書館)「組織アーカイブズ/収集アーカイブズ」
 報告3 阿久津美紀(目白大学)「評価・選別」
 報告4 平野泉(立教大学共生社会研究センター)「編成・記述」

 各報告後に、会場からの質問が出て、報告者を交えた議論が行われた。今例会で示されたとおり、国際的なアーカイブズ学の潮流により産み出された概念と、日本のアーカイブズ学で共通認識となっている概念には明らかに差異が生まれている。こうした再検討が行われることにより、国際的なアーカイブズ学の潮流を知り検討を進めていくことは、日本のアーカイブズ学をガラパゴス化させないためにも重要な視点であることが示された。
 例会の参加者は37名であった。

※今例会の各報告は、全史料協会誌『記録と史料34号』に特集として掲載される予定である。詳細はそちらを参照されたい。

※全史料協近畿部会事務局(徳島県立文書館)の事務的な問題により、今号の発行が遅れましたことをお詫び申し上げます。