テーマ：ワークショップ「近現代紙資料を実物で辿る」の開催

曽我友良(貝�恷s郷土資料室・全史料協近畿部会運営委員)

　これまで2016年に「古文書（近世村方、町方文書等）料紙調査のためのワークショップ」、2017年に文書の損傷と処理方法についてのワークショップ」、2018年に「近現代写真資料に対する保存処置を体験するワークショップ」を開催した。2019年はお休みして、2020年「劣化の進む近現代の紙資料―コッピー紙・ガラスペン・わら半紙」の準備中、新型コロナウイルス感染が広がり、その感染拡大阻止のためやむなく中止した。改めて仕切り直した今回のワークショップは中止して以後の３年間に、これまで講師をつとめていただいている大林賢太郎氏の研究がさらに深化し、新たに蓄積された院生・学生の皆さんを含めたゼミの成果を合わせ、より中身の濃い内容となった。

　具体的には近現代の行政文書などに用いられている紙資料の素材や筆記用具などにスポットをあて、紙の原材料はどのような素材により構成されているのか、筆記用具の用い方とともに検証した。和紙と洋紙を分けるものは何か、顕微鏡を用いて、紙繊維の分析をおこなった。また、全国各地に広がる地券の発行時期による原材料の比較では、参加者の多くが触れてきたであろう身近な紙資料であり、受け入れやすいものであった。参加者の興味関心の高さは当日に実施したアンケートからも確認できる。
　ここで、その一部を紹介したい。�@「どこでワークショップを知ったか」の問いでは、「全史料協近畿部会からのメールやマンスリーニュースで知った」「職場の上司から聞いて」との回答が見られた。�A参加理由については、「近現代の紙資料についての学べる機会が少ない」「近現代の紙の知識を求めて」といった動機がうかがえる。�B感想としては、「顕微鏡を用いての紙繊維の分析は初めて」「近代以降は、和紙→洋紙、墨→インクのようなイメージで捉えていたことを反省した」とこれまで自身が持っていた知識や、体験してきた調査との違いなどを述べるものが多かった。�C今後のワークショップについて、「劣化した史料の応急処置を知りたい」「小規模な組織でも可能な保存修復を教えてほしい」とそれぞれの職場や史料調査の現場で直面する悩み、その解決方法を求める声が多くあった。すでに過去のワークショップで取り上げたものもあるが、応急処置や簡単な修復などに対するニーズの高さが表れている。一歩踏み込んで言えば、本格的な修復に対する予算措置が足りない、あるいは全くないとも映る。これらの実態に今後どう向き合うか、解決に向けた模索が必要である。
　担当の運営委員としては、過去の３回で取り組んだワークショップも踏まえながら、参加者の思いに留意しつつ、講師をお願いする大林氏、運営をともに担当する島津委員とともに内容を練り上げ、引き続き取り組んでいきたい。
　なお、ワークショップでの機材の取り扱い、材料準備など、大学院生のみなさんの協力を得ている。末筆ながら感謝申し上げる。
　今回のワークショップの章立てに沿った紹介は参加記に詳しい。本報告では内容の重複を避ける形をとっているため、あわせてご一読いただきたい。

例会参加記

大久保雅央（個人会員）

「近現代紙資料を実物で辿る」に参加して

　去る2023年3月18日、京都芸術大学にて第164回例会「近現代紙資料を実物で辿る」が開催された。2020年3月に開催予定であったが、新型コロナウイルス感染の影響で延期されていたものである。
　私は2016年から開催されてきた紙を中心とする記録媒体の調査・補修・処置に関するワークショップに第１回から参加させていただいている。第１回＝古文書料紙調査、第２回＝古文書の補修・修復、第３回＝写真資料の保存処置、をテーマに開催された。各回の内容・参加記については既刊の会報を参照していただきたい。
　今回の例会は１基礎講義として（１）紙（和紙・洋紙）、（２）筆記具（ペンとインク、鉛筆）、（３）複写（カーボン複写・コッピーインク複写）、（４）印刷（活版・ガリ版）についての講義ののちに実習が行われた。（１）では洋紙≠西洋の紙であり、綿パルプに稲わらパルプを加えるのは日本独特である。和紙は明治35年（1902）から大正期が全盛期で、伝統的材料を含む紙料で手漉きまたは機械漉きで作られているとの説明があった。紙の事例として改正地券とわら半紙を紹介された。改正地券は民間製紙会社初の大仕事で衣類ぼろ（木綿）の紙であったが、後に大蔵省抄紙部が製造した三椏・稲わらの紙になった。一般的にわら半紙と呼ばれている紙は本当のわら半紙ではなく、本来は楮に稲わらを混ぜた和紙で、明治期教科書に使用する用紙としても使われていた、との紹介があった。紙の定義として国語辞典の説明を採り上げ、紙の作り方の説明になっていることが指摘された。
　（２）ではペン（万年筆・つけペン・ガラスペン）とインク（ＢＢインク）について採り上げられた。（３）ではカーボン複写は鉄道貨物の現場で早くから使われており、透ける薄紙と下紙の間にカーボン紙を挟んでガラス製の複写ペンで薄紙に筆記する方式である。コッピーインク複写は専用のコッピーインクで書いた紙を湿して白紙を合わせ、万力で圧力を掛ける方式との説明があった。
　２実習では、第１回と同様に紙質や筆記用具の調書を作成し、料紙の繊維を取って、顕微鏡で観察して紙の繊維を特定する作業を行った。紙の繊維を一部取り出し、Ｃ染色液を加えたうえ顕微鏡で観察した。観察した紙の繊維と配布された紙繊維の顕微鏡写真との比較を行い、紙の特定を行う実習であった。紙の種類を特定するのは難しいと感じた。自分で観察判定を行い、研究機関に判定を依頼して答え合わせを繰り返して経験を積むしかないのであろうか。紙の種類を特定する実習では、やり方を学ぶことができた。

　まとめは「近現代紙資料の保存修理に向けて」と題し、工業製品としての紙と筆記具に向き合い、紙とインクをセットで考えることが求められ、その劣化に対し補強や劣化防止対策を検討する必要があると指摘された。
　私は今回参加してみて、紙の原料・紙質・用途、筆記具の筆・墨、ペン・インク、印刷・複写技術のことをわかっていないと感じた。また、現在使われていない筆記具・用紙・印刷技術にも注視しておく必要があると感じた。こんにゃく版・湿式コピー・感熱紙で表記の消失が問題となっている。ワークショップで取り上げていただければ業務に役立つと思う。
　これまでのワークショップで行ってきた実習は自分たちで実施できる観察・補修の方法を提示していただけたと思う。専門家に依頼する処置とのすみ分けを考え、自分たちで実施できることは行っていくことを考えてもよいのではないかと思う。ただ、観察・処置に必要な道具・材料の入手先・方法など不明な点も多い。今後、講義での情報提供や参加者同士の情報交換の機会があればよいと思う。また、今回の例会のように実習・体験型の企画がもっとあってもよいと思う。