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 The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
 全史料協近畿部会会報デジタル版
 No.58  2017.12.6 ONLINE ISSN 2433-3204
 共催:アーカイブズカレッジ 短期コース報告
2017年(平成 29)11月13日(月)〜18 日(土)
主催:国文学研究資料館
会場:京都府立京都学・歴彩館


平成29年度アーカイブズ・カレッジ短期コースを京都で開催

アーカイブズ・カレッジの開催
 今年度の国文学研究資料館(大学共同利用機関法人 人間文化研究機構)主催のアーカイブズ・カレッジ(史料管理学研修会)短期コースは、11月13日から18日まで、今春に開館した京都府立京都学・歴彩館を会場に開かれた。全国の文書館、史料館、図書館等から約60名の参加があった。例年に比べると大学院生の参加の多かったのが特徴である。国文学研究資料館の先生方を中心に、講義、施設見学、保存修復実習などが行われた。
  アーカイブズ・カレッジ開講式(井口前会長)
  アーカイブズ・カレッジ開講式(井口前会長)

近畿部会の関わり
 今年度のアーカイブズ・カレッジは、全史料協近畿部会の誘致により京都で実現したものである。井口和起前会長の提案により近畿部会で決定され、国文学研究資料館に働きかけ、京都での開催が実現した。その結果、実施要項には近畿部会と京都学・歴彩館が共催という形で名前を連ねた。また、アーカイブズ管理の実際をテーマにした講義では、機関会員である尼崎市立地域研究資料館に一コマを依頼した(河野未央さん「地域とアーカイブズ」)。会場館である京都学・歴彩館からも、館の歩みを紹介するとともに、施設見学を実施した(大塚活美「アーカイブズの管理と利用」)。アーカイブズの保存修復に関しては、元興寺文化財研究所の金山正子さんの講義もあった。
  
会場となった京都学・歴彩館
 京都府立京都学・歴彩館は、昨年12月に開館した施設である(本年4月に本格オープン)。前身の京都府立総合資料館の南側150メートル、京都府立大学の敷地内に位置し、地上4階、地下2階の建物である。総合資料館の文書部門、図書部門を引き継ぐだけでなく、府立大学附属図書館、府立大学文学部等も同居する施設となっている。新たに京都学を推進する担当課も設け、今後いろいろな事業等を立ち上げる準備を進めている。
 アーカイブズ・カレッジは、1階の小ホール(研修室)で実施した。京都学・歴彩館にとっても、6日間の団体研修を受け入れるのは初めてのことで、講師控室をどこにするか、施設見学をどの箇所にするかなど、担当の職員とともに協議を重ねた。いろいろ不手際、使い勝手の悪さがあったかもしれないが、無事に終了できたことにほっとしている。

「アーカイブズ管理の実際」の講義
 前述したように近畿部会からは、尼崎の河野さん、京都の大塚が地域アーカイブズについて講義した。河野さんからは、尼崎市立地域研究資料館の実際の運営を紹介した上で、地域におけるアーカイブズの意義を考える内容が語られた。具体的には、利用・公開を軸とした文書館事業の紹介、市民文書館という理念を基にした各事業、その有機的な展開に関することなどである。
 京都からは、総合資料館の文書部門の40年余の歩みを振り返りつつ、現在の公文書(行政文書)、古文書の業務を紹介した。そのうえで新館の立ち上げ、旧館からの移転の話なども加えた。新館の施設についても、公文書・古文書の各収蔵庫を3班に分けて見学した。
  
  講義「地域とアーカイブズ」(河野さん)

参加者の交流
 受講者は毎日90分の講義を4コマ、6日間連続のハードな時間割をこなし、熱心に学んでいた。講義終了後も、夜9時まで開館している京都学・歴彩館の閲覧室を利用して公文書、図書類を調べる人、紅葉のライトアップをしている京都の寺社を訪れる人など、各人各様、有意義な日々を過ごされたようである。京都学・歴彩館の隣にある府立大学のレストランでの懇親会も2回行われ、受講生同士の交流も深めておられる様子であった。京都の11月は一年で最も観光客の多い季節で、宿泊先を見つけることも一苦労であったと思われるが、熱心な皆さんに新館を利用していただくことができ、当館としても関係者一同喜んでいる。
大塚活美 京都府立京都学・歴彩館職員)

   
 
アーカイブズカレッジ 短期コース参加記
TeacherからArchivistへ
   嵐 大二郎(徳島県立文書館 主任主事(古文書担当))
 県立学校の教諭として徳島県に採用されて10年目となる本年、私は徳島県立文書館に赴任いたしました。アーカイブズ・カレッジ短期コースには、アーカイブズに対する知識や、保存・管理・公開等の実務について深く学ぶために受講させていただきました。本年4月にオープンしたばかりの京都府立京都学・歴彩館において開催され、全国から58名が参加しました。私のように公立の文書館に勤務し、公文書を扱う立場の者だけでなく、企業や宗教法人の中で記録史料の管理をされている方や、アーカイブズを学ぶ大学院生など様々な経歴の方が参加されていました。
 私が特に関心をもったのがアーカイブズ理論です。例えば、公文書は「民主主義の根幹を支える国民共有の知的財産」であり、「主権者である国民が主体的に利用し得るもの」であるという定義は、言われてみればなるほどそうだと思いますが、これらを身をもって認識してはいませんでした。講義の中で、「公文書を保存し、公開することは、業務が公正におこなわれたという正当性を担保するもの」という言葉もありました。そのため、「作成者は作成段階ですでにその責任と自覚をもたなければならない」とも仰っていました。公文書を作成する立場の人間として、全く思いもよらなかった角度から仕事に対する心構えを示していただいた思いでした。アーカイブズの根本理論は、正直に申しまして難解でしたし、研究者の間でも様々な意見があるので、頭を整理するのに非常に苦労しました。しかし、昨年まで教育論を学び、体現する立場であったにもかかわらず、理論的なアプローチを怠っていたことに気づかされ、大いに反省いたしました。
  施設見学の班分け(大塚さん、ほか)
  施設見学の班分け(大塚さん、ほか)

 講義「アーカイブズの公開と普及活動」も大変印象深い内容でした。講師先生はまず、最低限の法律を知っておく必要性を話されました。アーカイブズを公開するという立場から「個人情報保護法」を取り上げられ、多くの人々が「個人情報」と「プライバシー」を混同して捉えていることを指摘されていました。また、「法律を知ることは、組織と自身を守るために必要」とも述べられていました。アーキビストの行動原理が、少なからず法や条例に基づいていることを考えれば、それらの内容を詳細に理解しておくことは至極当然のことです。私はまたも自身の認識の低さに気付かされました。
 30年以内に起こる確率が70%とも言われる南海地震の恐怖にさらされている本県としましては、災害時のアーカイブズ救出についての講義内容は大変に重要なものでした。アーカイブズ救出のために事前に備えておくべきことについて質問したところ、「県内の各公共団体の文化財課や教育委員会が、震災発生後できるだけ早くに動けるような組織体制を構築しておくこと」というアドバイスをいただきました。アーカイブズの救出が遅れることで「民主主義の根幹を支える国民共有の知的財産」を失うことは大いなる損失です。私は、本県に確認をし、必要とあれば上記のような仕組み作りを訴えていきたいと決意しております。
  保存修復の講義(金山さん)
  保存修復の講義(金山さん)

 研修の大きな成果のひとつに、他の参加者との交流があります。特に、私と同じように教育現場から文書館等に赴任されている方が数名おられたため、門外漢として現場で直面している課題を共有することができました。また、日頃接することの少ない企業の方々から、企業アーカイブズのお話を聞けたことも貴重な経験でした。今後、様々な機関・企業・団体と双方向に連携を取ることができれば、また新たな価値を見出すことができるのではないでしょうか。
 全ての研修が終了した後、最も強く私の中に残ったのは「アーキビストとしての使命感と矜恃」でした。全ての講師先生から、記録史料を散逸させずに守ること、そして活用することに対して如何に真剣勝負であるかが伝わってきました。そして同時に大変恥ずかしく、焦りに似た気持ちが湧き起こりました。文書館の存在やその業務に対する、私の認識の低さを痛感させられたからです。教育現場の経験しかないため認識が低いのは当然かもしれませんが、圧倒的な熱量の差を突きつけられた思いがしました。私は本来教育者ですが、文書館で勤務する上は、アーキビストとして経験や見識を重ね、課題に真摯に取り組む決意です。現在、徳島県立文書館職員として勤務している者で、教育現場に戻る可能性があるのは私だけです。この度の研修で学んだ知識や心構え、またこれからの文書館勤務で得ていく経験等を、教育現場に還元させることのできる、県下で唯一の存在とも言えます。その希少性に価値を付加させるためには、私自身のアーキビストとしての成長が不可欠です。熱意をもって周囲に伝えることができるほどの「アーキビストとしての使命感と矜恃」を少しでも獲得できるよう日々研鑽していく決意です。大変大きな刺激になったと同時に、武者震いを覚える1週間でした。


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