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全史料協近畿部会会報デジタル版ロゴ

The Japan Society of Archives Institutions Kinki District Branch Bulletin
全史料協近畿部会会報デジタル版
No.74
2021.9.14 ONLINE ISSN 2433-3204

第157回例会報告

 

2021年(令和3)7月25日(土)
 会場:堺市立中央図書館からのオンライン開催

テーマ:堺市立中央図書館における地域歴史資料の保存と利用

佐藤 明俊(全史料協近畿部会運営委員)

 本例会はもともとは、和田義久委員の企画によるもので、コロナ禍にともなう昨年度の例会の休止と、同委員の退任に伴って、当日司会を務めた島田克彦委員が継承して実施にこぎつけたものである。それでも、本年度初め段階までは、施設見学を兼ねて、現地すなわち堺市立中央図書館で、時に実際の史料を前にしながらの開催が予定されていたが、やむなくズームによるオンライン開催となった。4報告というボリュームで、個人的には自室で熱中症?になりかけながらの参加だったため、やや集中力を欠いてしまい、以下に記す記録が正確さを欠いていないか心配である。半面、埼玉や広島といった遠方を含め、32名の参加があった。

報告1 「堺市の地域資料について」

竹田 芳則氏(奈良大学)

 堺市立中央図書館で地域資料を担当していた竹田氏から、堺市における編纂事業の歩みと、その過程で蓄積され、現に中央図書館が継承している史料について、経緯を含めて報告があった。堺市では、早くも1901年頃から市史編纂事業が開始され、予算削減による中絶期間を経つつも、1931年から33年にかけて、正編と通称される『堺市史』全8巻の刊行にこぎつけている。この時期の史料収集方法としては、筆耕や模写による収集が積極的に行われた。この過程において、編纂開始当初の諸史料の写本『堺史料類聚』59冊や、明治初期に存在した堺県の行政文書を写本に加え一部原本を綴りこむ形でまとめた『堺法令類聚』正続64冊、中絶後のものは『堺市史史料』等にまとめられている。『堺市史史料』は、『堺史料類聚』同様の写本145冊に加え、絵図の模写・原文書・史料調査時に撮影した街頭光景の写真を含むものである。
 さらに、戦後には市域の拡張を踏まえるかたちで、1963年から1976年にかけて『堺市史続編』全6巻が編纂され、文書目録2冊も刊行されているという。


堺市立中央図書館編『『堺市史』刊行80年記念資料展図録』表紙



報告2 「堺市立中央図書館の所蔵資料の紹介

春木優子氏(堺市立中央図書館)

 オンライン開催となった本例会では、カメラを使って史料を紹介し、これを館の春木氏が解題する形で行われた。具体的に紹介されたのは、模写された絵図群や近代の引き札、製本された新聞原本、焼失した大浜公会堂の平面図等で、なお、これらの史料の一部については、館HPの「地域資料デジタルアーカイブ」で紹介されており、新聞原紙についても、閲覧用の紙焼きが作成されている等の措置が講じられている。

報告3「中央図書館所蔵庫文書の調査について」

大久保雅央氏(元寝屋川市市史編纂課調査員)

 編纂事業を継承する形で1998年以来継続している、館が行っている古文書整理について、古くから関わっていた大久保氏より報告があった。この間、館が直接行った1998-2002の第1期・2012年-現在の第3期、ふるさと創生交付金を利用して元興寺文化財研究所に委託する形で行われた2009-2011年の第2期に区分されるという。
 特色として、1960年代続編編纂の過程で行われていた主題別分類を家分けに復元、単に市中関係文書と一括されていた文書群から、出所を復元して新たな家分け文書として独立させるなど、調査によって得られた知見をも組み込む形で整理が進められている。そのなかでは、年刊の『堺研究』が大きな役割を果たしていることにも言及があった。

報告4「地域資料の利用について」

岡田光代氏(大阪府立大学准教授)

 堺市の近世文書類の所在について、1.市立中央図書館が所蔵しているもの、2.堺市博物館が所蔵しているもの、3.堺市法制文書課が所蔵しているもの、4.大阪府立大学が所蔵しているものと総括、その上で3.以外は一般利用が可能な状態にあるとした。
 次に、岡田氏が勤務する府立大学のキャンパスのある、堺市土師地区の文書について具体的に報告があった。1.市立中央図書館の所蔵する文書以外に、これと同出所と考えられ、現在は4.のうち学部図書館相当施設が所蔵する文書がある。これは報告者が古書店で購入したもので、どのように整理が進められたかが紹介された。一般利用の状況についても、必ずしも多くはないものの、地元の自治会がプロジェクトを作っての調査が進められているという。

 その後の質疑では、堺市立博物館の江坂正太氏からも、当主が地域を離れてしまった家からの、大規模な文書群の受入れがあり、整理が進められている現状について報告があり、受け皿となるべき機関の役割の重要性が議論された。全史料協機関会員である堺市法制文書課も、続編を編纂した過程で撮影されたマイクロフィルムのみならず、原史料をも所蔵しているのではといった指摘もあった。
 竹田報告では、続編編纂終了時に、史料館へ発展させる構想があったことが紹介されていたが、それは果たされていない。しかし、編纂の成果を踏まえる形で、それぞれの場所において、重層的に史料を調査・保存・公開を継続している堺(市)での取り組みを、様々な角度から紹介する例会となった。

例会リハーサル前の風景 堺市立中央図書館にて
地域資料調査ボランティア「堺メモリー倶楽部」のメンバーと竹田氏、春木氏。
2021年7月18日 島田克彦撮影

参加記

「堺市立中央図書館における地域歴史資料の保存と利用」への参加を通して

稲田琴美(滋賀県立公文書館)

 令和3年(2021年)7月25日にZoomミーティングにて行われた全史料協近畿部会第157回例会では、「堺市立中央図書館における地域歴史資料の保存と利用」というテーマが掲げられ、4名の方から堺市の史料に関しての現状や課題についての報告が行われました。
 今回初めて例会に参加させていただいたことで、堺市の状況と比較しながら当館が所蔵する滋賀県の史料状況について改めて考える機会となりました。

報告@竹田芳則氏「堺市の地域資料について」
 奈良大学文学部にて教鞭をとられ、司書課程にも携わられている竹田氏より、『堺市史』や『堺市史続編』の編纂の経緯や堺市立中央図書館所蔵史料についてお話しいただきました。
 平成22年(2010年)の「『堺市史』刊行80年記念資料展」の展示図録とともに、堺市の史料の保存や利用の変遷を他府県の者にも分かりやすく説明していだだき、理解を深めることができました。明治期に一度編纂が止まってしまったものの、大正12年(1923年)の関東大震災をきっかけに当時の堺市当局が危機感を持ったということが特に印象に残った事項です。現在ほど科学技術も発展していない中、歴史資料が失われる様子を目の当たりにし、地震への恐怖と当時の人々が受けた衝撃は現代人の想像を超えたものではないでしょうか。加えて世界恐慌による不況により刊行が危ぶまれるなどの紆余曲折がありながら、『堺市史』全8巻が刊行されたこと、その後『堺市史続編』が刊行されたことは、当時の関係者の多大な努力と、多くの市民から理解を得た故の成果に他ならないことだと思います。

報告A春木優子氏「堺市立中央図書館の所蔵資料の紹介」
 堺市立中央図書館図書館サービス係地域資料担当の春木氏からは所蔵史料である絵図、引札、新聞、建築図面、巻物についてご紹介頂きました。
 『堺市史』の基礎となったのが、監修者の三浦周行が執筆した「堺港の研究」であったため、堺市立中央図書館において港に関する史料が保存されています。当時の編纂の状況を知る手がかりにもなるため、編纂に用いた史料を残しておくことの重要性を実感しました。

報告B大久保雅央氏「中央図書館所蔵庫文書の調査について」
 元寝屋川市市史編纂課調査員の大久保氏からは平成10年(1998年)から開始された古文書整理事業についてお話しいただきました。令和2年(2020年)度までに40件の文書群について整理・目録作成が行われたそうです。今回の調査の結果、以前の調査の際に付けた文書名を変更する事例もあり、例として「家番号29堺南半町綿谷小雛文書」という史料などを挙げられ、以前は小雛より一代後の人物名が文書名となっていましたが、調査の結果小雛の文書と判明したそうです。このような文書の整理においては、四つの課題があるとのことでした。具体的には(1) 中央図書館所蔵の文書群同士の関連性を検討する、(2)関連性検討の結果、必要があれば文書群の分離・統合・文書群の名称変更を行う、 (3) 新規受け入れ文書群の整理・目録作成を行う、(4)中央図書館所蔵以外の文書群との関連性の検討をすることを挙げていただきました。

報告C岡田光代氏「地域資料の利用について」
 大阪府立大学経済学部の岡田氏から堺市域の近世史料についての報告をしていただきました。同市の近世史料は、堺市立中央図書館、堺市博物館、法制文書課、大阪府立大学に所在し、当時の村単位で人々の生活を知る手がかりとなる文書があるそうです。
 課題としては現在、大阪府立大学の文書整理を中心的に担っている立場から、史料の保存に関してのお話がありました。来年令和4年(2022年)に大阪府立大学が大阪市立大学と統合し、大阪公立大学(仮)として大阪市に移転するため、それまでに大阪府立大学の文書群をどうするかが大きな課題とのことでした。

 最後に質疑応答の時間が設けられました。今後の課題に関しては史料を扱う担い手の育成への苦慮などの意見が出ました。この対策として史料管理のハードルを下げ、ボランティアの方や学生の方を募るべきではないか、より多くの方へ興味を持っていただけるように情報発信に力を入れるべきではないかといった議論が交わされました。
 現在、昨年から継続して新型コロナウイルスの感染症拡大という未曽有の事態が起きていますが、この状況もいずれ、各市町村史や各都道府県史に掲載される日が来ると思われます。しかし、関連する文書を史料として残す人材が不足し、興味関心を持つ方が少ない状況であれば、歴史資料として伝えることが出来なくなることもあり得るのではないでしょうか。今後も議論を重ね、自らの業務を全うし様々な方に史料へ興味を持って頂けるように努めることで課題の解決に向き合っていきたいと思います。